視点

コミュニティー経済はすでに始まっている

2022/10/12 09:00

週刊BCN 2022年10月10日vol.1941掲載

 「DAO(自律分散型組織)」が会社を変える、社会構造を変える――。そんな言葉が飛び交っているが、一部の有識者からは理想論に過ぎない、DAOの成功には結局強いリーダシップが必要でその結果はあまり今と変わらない、といった意見を聞くようになってきた。

 私も簡単に社会の常識が変わるとは思っていないが、今の決まりが変革を遅らせていることは確かだ。例えば、空間の所有権を売買するとしよう。不動産(土地)が売買できるのは、登記によって所有権が確定し、市場で売買されることで価格が決まるからだ。つまり空間の権利を売買するには、まず所有権を設定するために法律で空間登記の仕組みをつくり、政府がそれを保証することが必要である。つまり中央集権のたてつけが必要なのだ。

 なぜ必要なのか。それは所有権をきちんと担保してくれる信用力と、それをきちんと実行してくれる確実なコミットメントが必要であるからだ。そのために必要な仕組みが法律でありルールになる。

 ただ、時間がかかるし、権力の集中化が起こる。価値観が多様化しコミュニティーが小さくなっていくこれからの時代では、必要な仕組みは全体最適を国レベルで行うのではなく、志向の同じコミュニティーであれば、コミュニティーで担保される仕組みがあれば可能なはずだ。それが「Web3」の仕組みであり、DAOが実現する社会構造なのである。

 この新しい組織構造がうまくいくのか、といった議論がある一方、すでに小さなコミュニティー経済はインストールが進んでいるという事実がある。「フォートナイト」ユーザーの子どもたちはTwitterで競技場が作れる人、デザインができる人、スポンサーや集客ができる人といった役割に応じて担当できる人を集めてチームをつくり、PayPayの送金機能を使って大会を運営している。ブロックチェーンプラットフォームは使っていないが、まさにDAOである。

 仮想通貨ではないが、電子マネーを使い、役割とルールを決めてチームをつくり、大会が終わったら解散する。案件ベースで必要な人材が集まり、仕事の役割に応じて報酬を得る。コミュニティー経済は子どもたちの間ではすでに運用されているのだ。ビジネスパーソンも表面的な知識を議論するより、まずは試行することを推奨したい。

 
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦
渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
 1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構
  • 1