視点

いま日本経済が必要とする最前線の経営者たち

2022/10/05 09:00

週刊BCN 2022年10月03日vol.1940掲載

 「社員の評価は仕事で新しいことに挑戦し失敗すること。失敗が大きいほど評価が高くなります。これは海外子会社も同じです」。精密バネを製造、販売する五光発條(本社神奈川県)の村井秀敏会長はそう語る。

 「それは製造現場や営業だと十分理解できますが、総務や経理ではかなり難しいと思うのですが」と質問すると、「そんなことはないですよ。どんどん出てきています。なにしろ失敗しないと評価されないので、思いもかけないことをやり出しますよ」と楽しそうに答える。

 村井会長は、会社が利益を出し内部留保を増やすことをあまり評価していない。もちろん運営する上で資金は必要だが、本来会社とは人材、技術力、有力な顧客が何より財産だし、これらが会社の力だとする。

 同社は仕事を断らないことを社是とする。このため、他社が断った難しい仕事がどんどん舞い込む。これに挑戦するには、失敗は避けて通れない。「今の社員は優れていて、経営者が腰を抜かすような失敗はそうそういたしませんよ」と、こともなげに話す。

 「前期の管理職のボーナスは7カ月でした。今期はがんばると8カ月になるぞと、幹部社員は意欲に燃えています」と語るのは、オフィスコーヒーサービスなどを手掛けるダイオーズ(本社東京都)の大久保真一会長である。

 この会社は創業以来、国内事業は53年間で1回も赤字経営はない。おそらく東証プライム市場のなかでも同社だけではないかと思えるほどだ。好調な理由は二つある。

 一つは絶え間ないサービスのイノベーション。コロナ禍でテレワークが進み、さすがに売り上げが落ちていると思ったら、タイミング良く空間除菌消臭機「ナノシードアルファ」というコロナ時代向けの新製品を出していた。もう一つが社員を評価する仕組みを緻密につくり出したことだ。頑張った社員を評価する、これが多くの日本企業には徹底されていない。頑張りをきちんと評価する仕組みがないから工夫をしない、頑張らない風土が定着してしまう。

 この両社に共通しているのは、毎月、経営状況を社員に公開し、利益が出たら惜しみなく社員に還元している点である。一人一人の社員と経営者が目線を同じくして努力を積み重ねれば成長できる。彼らこそ、いまの日本経済が必要とする最前線の経営者である。

 
アジアビジネス探索者 増田辰弘
増田 辰弘(ますだ たつひろ)
 1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。2001年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。
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