視点

DX推進のかぎは地道で辛抱強い継続

2022/08/24 09:00

週刊BCN 2022年08月22日vol.1935掲載

 経済産業省が主催する、「中堅・中小企業等向け『デジタルガバナンス・コード』実践の手引き」に関する地域別説明会に参加する機会を得た。中小企業におけるDX推進の現状を知るうえでよい機会かと考え、関東経済産業局の説明会場に足を運んだ。会場では定員の50名を若干欠けるくらいの中小企業経営者と思しき人々の姿が見られた。

 経済産業省のWebサイトによれば、デジタルガバナンス・コードとは「企業のDXに関する自主的取組を促すため、デジタル技術による社会変革を踏まえた経営ビジョンの策定・公表といった経営者に求められる対応を取りまとめたもの」だそうだ。

 さて、この地域別説明会に参加して私なりに得た収穫は、デジタルガバナンス・コードの内容でもなければ、DX推進優良事例として紹介された企業の取り組みでもない。そんな情報は巷に溢れている。

 最大の成果は、説明をした担当者が幾度も念を押すように指摘していた「DXは一朝一夕に実現できるものではなく、何年もかけて地道に辛抱強く継続すべきものだ」ということにある。今やDX実践の成功事例として、いろいろなところで紹介され、すっかり有名になった三重県伊勢市の老舗「ゑびや大食堂」の例にしても、経営者自らが現場の情報を日々「Excel」に入力することから始めて何年もの間、努力を積み重ねた結果として、あのような成果が得られたのだという点を強調していた。

 遅々として進まない中小企業のDX推進の現状を捉えて、単に他人様の成功事例をなぞるのではなく、経営者自らが地道に継続して取り組むことが大切だ、と訴えていたことが私には強く印象に残った。

 この地域別説明会に参加して得られたもう一つの収穫は、「DX認定制度」に対する私自身の認識を改めたことである。担当者の説明から、これがDXを実践した企業を認定するものでなく、「DX ready」つまりDXを実践する準備を整えた企業を認定するものであると理解できた。

 これなら、私がDX推進のお手伝いをしている小規模企業の経営者や個人事業主の皆さんにも興味を持っていただけると思い、幾人かに声を掛けたところ、その取得に高い関心を示された。彼らのDX推進に取り組む意志の強さを改めて認識した次第である。

 
株式会社SENTAN 代表取締役 松田利夫
松田利夫(まつだ としお)
 1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。
  • 1