視点

スキル向上が日本の産業を活性化させる

2022/07/27 09:00

週刊BCN 2022年07月25日vol.1932掲載

 6月16日に日本リスキリングコンソーシアムが設立された。リスキリングとは、一般にはまだ聞きなれない言葉かもしれないが、再びをあらわす「リ」と技術を身につけることをあらわす「スキリング」を合わせた言葉だ。リクルートワークス研究所によると、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義されている。

 筆者が教員を務めるサイバー大学では、一般的な大学教育としての学びだけでなく、キャリア形成につながるリカレント教育と、企業の戦力強化のための社員教育にも貢献することを目指している。ここで出てくる「リカレント」という言葉は学校教育からいったん離れて社会に出た後も、それぞれが必要なタイミングで再び教育を受け、仕事と教育を繰り返すことなのでリスキリングとほぼ同義語だ。

 大学を出た後の知識や技能の更新がほとんど行われていないことが、変化の激しい世界経済の中で日本の産業衰退の原因になっていると「やっと」広く認知されてきた結果だと思う。

 「やっと」と書いたのは、こうしたことは最近発覚したことではなく、ずっと前から指摘されてきた。日本では大学卒業というよりは、大学入学時点で学びがストップしていた。海外で働いた方は分かると思うが、就業しながら勉強を続ける人は多いし、それが個人のキャリア形成につながっている。広く俯瞰すると産業全体の能力の向上にもつながっている。

 他方、スキル向上を補っていたと言える企業内での研修の機会は、逆にどんどん減ってきているように感じる。採用の際は休暇取得などの福利厚生や給与面に焦点が集まり、企業内教育はあまり注目されない。企業側も即戦力という幻想を抱いているので、すぐに辞めていく社員に投資をすることはリターンの少ない投資とばかりにメニューを減らしているようだ。一時期のMBAブームで、海外に研修に出した優秀な社員が転職していったことがトラウマになったのかもしれない。

 企業は社員のスキル向上を奨励し、さらに労働力の流動化を肯定的にとらえるべきで、それが日本の産業全体の活性化につながると思う。

 
サイバー大学 IT総合学部教授 勝 眞一郎
勝 眞一郎(かつ しんいちろう)
 1964年2月生まれ。奄美大島出身。98年、中央大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。同年、ヤンマー入社、情報システム、経営企画、物流管理、開発設計など製造業全般を担当。2007年よりサイバー大学IT総合学部准教授、12年より現職。総務省地域情報化アドバイザー、鹿児島県DX推進アドバイザー。「カレーで学ぶプロジェクトマネジメント」(デザインエッグ社)などの著書がある。
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