視点

まずは小規模企業の「DX」推進から

2022/05/04 09:00

週刊BCN 2022年05月02日vol.1921掲載

 従業員300人以上の企業経営層を対象としたDX関連のアンケート調査によると、7割がDX推進の必要性を感じており、「コスト削減」「業務プロセスの効率化」といった効果を期待するものの、課題として「推進できる人材がいない」「開発できる人材がいない」「予算がない」などをあげている。

 要は、DX推進は必要だと思うが、お金もない、人材もいない中で、どのようにすればデジタル技術を活用してコスト削減を行い、業務生産性の向上を図ることができるのか、模索している状況なのだろう。

 DX推進には顧客体験、業務プロセス、ビジネスモデルの三つの主要領域で変革が求められるが、国内企業の関心は業務プロセス変革によるコスト削減と業務の生産性向上に偏っている。DX推進が本当の意味で普及するには、まだ時間がかかりそうだ。

 これが、わが国の1%に満たない従業員300人以上の企業の実態だとすると、99%を占める300人未満の企業はどれほどのものかと懸念される。従業員10人以上300人未満の企業に絞ったとして約24%、40万社ほどがDX推進の流れから取り残される可能性は少なくない。一般に中小企業と呼ばれる、この規模の企業では専従の情報システム部門を持たないところがほんど。その意味で、IT人材が不足しているのではなく、IT人材そのものがいないと言ってよいのではないか。

 かつて地方自治体のセキュリティ強靭化というテーマがIT市場で騒がれていた頃、小規模地方自治体の情報システム担当者から、IT事業者に声を掛けられることすらない、と聞かされたことを思い出す。IT予算規模の小さな組織にとって、DX推進のハードルは低くない。

 しかし、企業規模が小さければ小さいほど、経営者の即断でDX推進へと一挙にかじを切ることも可能であろう。小規模企業の経営者に対して、IT人材を随時オンデマンドで廉価に雇用できる仕組みを提供するとともに、企業規模やそれぞれの予算規模に応じたテーマ選択から始めて、身の丈に合ったDX推進を継続的に続けられる情報通信システム環境整備のお手伝いができれば状況は変わるかもしれない。DX推進は小規模企業から、という視点もあるのではなかろうか。

 
株式会社SENTAN 代表取締役 松田利夫
松田 利夫(まつだ としお)
 1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。
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