視点

リアルとオンラインの経験を生かして活躍を

2022/03/30 09:00

週刊BCN 2022年03月28日vol.1916掲載

 卒業式シーズンの今月は、晴れ着に身を包んだ人を多く見かけた。新型コロナウイルスの感染が拡大して以降、社会は大きく変わり、学生生活にも影響した。今年の卒業生の中には、短大生など、入学からの約2年間を全て新型コロナ禍で過ごした人もいる。それでも卒業を迎え、お互いに喜び合う姿は印象的だった。4月からは、それぞれ別の道に進む。中にはIT業界で働く人もいるだろう。

 新社会人を迎えるIT業界は現在、デジタルトランスフォーメーション(DX)関連の需要などにより、追い風が吹いている。調査会社IDC Japanが今月発表した「国内ITサービス市場予測」によると、2021年の国内ITサービス市場は、新型コロナ禍の影響が一部で続いたものの、市場全体としては順調に回復し、市場規模は前年比3.2%増の5兆8713億円とプラス成長に転換した。22年以降も堅調に推移する見通しだ。

 活況に沸くIT業界だが、課題もある。例えば人材の確保だ。経済産業省が19年にまとめた「IT人材需給に関する調査 調査報告書」では、国内のIT人材は、30年には最大約79万人が不足すると試算されている。市場は拡大しているが、既に業界内からは「仕事は山のようにあるが、人が足りない」と悲鳴に近い声が上がっている。

 国内ではこれまで、システムの開発や導入はIT企業が担うケースが多く、IT人材はIT関連企業に従事する割合が高い傾向にあった。しかし、最近はDXを目指すユーザー企業が積極的にIT人材の獲得を進めており、人材確保の面でライバルになりつつある。

 世界では、海外の巨大IT企業による優秀な人材の奪い合いが起こっている。国内のIT企業が、高いデジタル技術を持つ新卒人材に対して年収1000万円以上の報酬を提示する例も出ており、経産省は「一律初任給や年功序列などの日本の伝統的な給与体系が崩壊しつつある事例として、注目を集めている」としている。

 市場が大きく動き、雇用にも変化が出始めている中、4月からIT業界で働く人には、学生生活で得たリアルとオンラインの経験を生かして大いに活躍してほしい。上の世代が思いつかなかったようなアイデアで課題を解決することができるかもしれないし、今までになかった新たな価値を生み出すことができるかもしれないのだから。

 
週刊BCN 編集長 齋藤 秀平
齋藤 秀平(さいとう しゅうへい)
 1984年4月生まれ。山梨県甲州市出身。2007年3月に三重大学生物資源学部共生環境学科を卒業。同年4月に伊勢新聞社(津市)に入社し、行政や警察、司法などの取材を担当。16年4月にBCNに入社。リテール業界向け媒体の記者を経て、17年1月から週刊BCN編集部に。上海支局長を務め、22年1月から現職。旧姓は廣瀬。
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