視点

手法を真似ただけのアジャイル開発は失敗する

2021/12/15 09:00

週刊BCN 2021年12月13日vol.1903掲載

 「アジャイル開発に取り組んではみたのですが、うまくいかない」との声がある。

 うまくいかないのは、おおよそ三つの理由がある。

 まず一つは「システムを作ることを目的にしていること」。

 ビジネスを成功させることを目的とせず「システムを作ること」を目的としていては、うまくいかない。仕様書通りにシステムを開発するのではなく、どうすれば、売り上げや利益、顧客満足などの事業目的を達成できるかについてユーザーと対話し、それをもとに最適なソフトウェアの開発を目指す。そして、できるだけコードを書かずに、いち早く事業目的を達成することが必要だ。

 二つめは「兼任/兼務でやっていること」。

 他の仕事を掛け持ちすべきではない。集中が途切れ、事業の成功に対する情熱も削がれ、習熟度も高まらない。稼働率を高めて工数で稼ぐのではなく、ユーザーの事業成果を高めることを目指すためには兼任/兼務は避けるべきだ。

 そして最後の三つめが「チームを信頼して任せていないこと」。

 アジャイル開発は「変化に対応することを計画に従うことよりも重視」する。だから、現場に権限を委譲し、信頼して自律的に判断、行動させ、圧倒的なスピードを手に入れるべきだ。

 そんなアジャイル開発を「現場に任せてしまうので、計画を立てても意味がない」と誤解をしている人たちがいる。あるいは自分たちの計画の失敗を取り繕うために「アジャイル開発だから、仕方がない」と言う人たちもいる。

 確かに、一切の変更が許されず、その通りに実行しなければならない完全無欠の計画ではうまくいかない。だから変化を許容する計画にすべきだ。そこには、計画とは仮設であり、変化とともに修正すべきものであるとのコンセンサスのもと、計画を実行する過程で生じる変化に対応することが重視される。

 こんな前提があるにもかかわらず、管理者が作業の進捗や品質に細かく介入しようとすれば、現場の自律は失われ、モチベーションも大きく下がり、変化への即応力もなくなる。

 手法を真似るだけの取り組みはうまくいかない。本質や原理原則を追究してこそ、うまくいくことを忘れてはいけない。

 
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義
斎藤 昌義(さいとう まさのり)
 1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する。
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