視点

「DXにはクラウド」と短絡的に考えてはいけない

2021/12/01 09:00

週刊BCN 2021年11月29日vol.1901掲載

 DXにはクラウドだと短絡的に考えてはいけない。クラウドを使えばIT投資費用を抑えて、DXへ向かって邁進できるなどという約束はない。著名なクラウドサービスを契約してから、それを活用するにはエンジニアリングサービスへの追加投資が思いのほか必要だと分かって、頓挫してしまったという笑い話を度々耳にする。

 DXで考えるべきは、単に人手不足を補うために既存業務を自動化するとか、顧客とのコミュニケーションにビデオチャットを導入するとか、テレワークのためにパッケージソフトをクラウド版に代える、といった姑息な改善ではないはずだ。

 気移りしやすい顧客との接し方を改革し、生産性向上とは程遠い業務プロセスを組み立て直し、急激に変化する市場ニーズに合った製品・サービスを迅速に提供できる体制を構築する。このためにデジタル技術を使いこなせる組織になるよう自らを変革することなのだ。それはゴールのない、見果てぬ道程なのだ。だからこそ、まずは今使っている情報通信機器や情報システムを利活用できているかを考え、本当に利活用できるように改善することから始めようではないか。

 企業のほとんどがPCやサーバー上に数多くのアプリケーションを蓄積し、使い続けている現実を直視しよう。日々の業務に利用している社内のPCやサーバー上にあるアプリケーションを、クラウドサービスを利用するのと同じように、いつでもどこでも、身近にあるPCやスマホを使って利用できるようにすることは、そう難しいことではない。使い慣れたソリューションを捨てて、あわててクラウドサービスへと移る必要などない。

 レガシー通信機器の象徴的存在であるファクスの利用をやゆする声が聞かれるが、電話だって似たようなものである。日々使っているモノを否定し、性急に排除する必要などない。新しいモノへと置き換えるにはお金と時間がかかる。ファクスも電話もPCやスマホを使って、いつでもどこでも利用できるようにするだけで、業務コミュニケーションの効率は著しく改善する。さらに、ファクス、電話、メールには大切なビジネス情報が詰まっているのだから、その記録を残して後で活用できるよう備えよう。

 さまざまなクラウドサービスを活用するためにも、このような足元の情報通信システム環境の整備が役に立つ。

 
株式会社SENTAN 代表取締役 松田利夫
松田 利夫(まつだ としお)
 1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人みんなのクラウド」の理事を務める。
  • 1