視点

消えゆくITビジネス?

2021/08/04 09:00

週刊BCN 2021年08月02日vol.1885掲載

 今使っているWindowsパソコンは3年前に購入したものだ。二十数年前には3、4カ月に一台のペースで新しいパソコンを買っていたことが嘘のようだ。オフィスソフトは新しいバージョンが出るたびに年2回は買っていたが、今では年一回オンラインで契約更新をするだけだ。

 ウイルス対策ソフトはもう10年近く買っていない。パッケージソフトについても、これといったものを購入した記憶がこの数年はない。その代わりクラウドサービスやオープンソースを無償で使っている。

 この二十数年間、ライセンスソフトウェアの再販を生業としてきた身にもかかわらず、個人的な用途ではライセンスソフトウェアをほとんど買わなくなってしまった。週一ペースで足繁く東京・秋葉原のパソコンショップに通っていたのは何年前のことだったろう。いつからか、コンピューターも周辺機器や部品類も、そしてソフトウェアも家電量販店で買うようになり、それが今ではほとんどオンラインショップでの購入に変わっている。総じて購入単価も下がり、昔ほどコンピューター関連機器やソフトウェアに金銭を使わなくなってしまった。

 受託開発、SESなどと呼ばれる人月ビジネスについても、私自身、30年程前に受託開発の人月単価を150万円で見積もっていたことなど夢のような話だ。今ではその半分でも高いと言われてしまう。20人ほどの会社で、年間4~5億円規模の案件を受託していたと言っても今では信じてもらえまい。

 この十数年、受託開発ビジネスには積極的に携わってこなかったので、最近の受託開発の市場動向には疎くなっているのだが、近頃、わが社に舞い込んでくる開発案件を見ていると、単価60万円位で2、3人月程度の規模のものばかり。お付合いで請けてはいるが、そんな単価でまともなエンジニア人材を雇えるはずもなく、これではビジネスとして長く続けられるものではない。

 ソフトウェア再販ビジネスばかりか、人月ビジネスの終焉も間近に迫っているのか。仮想化、クラウド、人工知能・機械学習、自動化など、情報技術が生み出したこれらの技術がその人月ビジネスを消し去ろうとしている。ならば発想を変えて、それら技術を活用し既存のITビジネスを蹴散らしてしまうほどの新たなITビジネスを創造するほかに道はなかろう。

 
株式会社SENTAN 代表取締役 松田利夫
松田 利夫(まつだ としお)
 1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。
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