視点
中小企業にとってのDXは大きなチャンスに
2021/07/21 09:00
週刊BCN 2021年07月19日vol.1883掲載
「むつかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく」。これは井上ひさしの有名な言葉であるが、中小企業のDXでこれだけピタリとはまる表現はない。そしてこのやり方で、うまくこなしている企業も少なくない。こうすればお客さんが広がりそうだ、こうすれば次の製品開発のヒントをつかむことができそうだ、を考えれば良い。それが結果的にDXであったりIoTであったりする。
A社の取り組みは、まさにこの見本のような事例である。同社は高精度加工機の製造、販売を行うメーカーだが、精度が高い製品ゆえに故障が頻発する。アジアでは日本とは気候が異なり、オペレーターの気質も異なる。どうしても故障が発生しやすい。遠隔地での高頻度の故障、これが長年の課題であった。
そこで、製品である各種機械にセンサーを設置してデータを取得、それをクラウド上にリアルタイムで表示できるようにした。これによって同社から納品先に対して、専門技術者が遠隔で指導し原因究明や故障の修理、製品の使い方の指導を丁寧に行うことができた。
中小企業なのに、なんでこんな手品のようなことができたのか。まず手掛けたのは、社長をトップとし各部署から人材を選抜してプロジュクトチームを発足させたのである。中小企業においては、まずトップが乗り出さないとDXはうまく進まない。
そして、このDXの導入は意外な経営効果を発揮する。これまで売り切りであった機械のユーザーにリアルタイムで接触できたことだ。つまり、毎日営業活動しているようなものである。減価償却期間が長くユーザーと疎遠になりがちであった経営課題が一挙に解決した。
もう一つはユーザーから毎日情報が入るから、次の新製品の課題がどんどん見えてくる。ユーザーが中国やアジアへと広がるにつれて、それに見合う製品のかたちが顕在化したことである。考えてみれば、中小企業にとってはDXこそがむしろ大きなチャンスなのである。
- 1