視点

漫画村の判決とブロックチェーン

2021/06/30 09:00

週刊BCN 2021年06月28日vol.1880掲載

 「ONE PIECE」「キングダム」といった人気漫画を権利者に無断でネットにアップロードし、多額の広告収入を得た上に、海外に送金して隠していた海賊版サイト「漫画村」の主犯格の男に対して判決が下った。6月2日にあった福岡地裁の判決は懲役3年、罰金1000万円、追徴金約6257万円というもので、大きなニュースになった。

 コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)では、2017年5月頃から漫画村について調査を始め、会員である出版社や捜査機関と連携してきた。

 今回、起訴対象の作品について刑事責任が示されたのだが、そのほかにも多数の作品が漫画村を通じて甚大な被害を受けた。コンテンツ海外流通促進機構の試算によると、その推定被害額は3200億円を超える。出版社と権利者は民事責任の追及も検討しているが、今回の判決で、著作権を侵害してビジネスをしようと企てた者に対して刑事罰と犯罪収益の追徴が科された意味は大きい。

 一方で、権利者による本物のデジタル作品をネットで流通させる技術的な模索も始まっている。注目されているのは、暗号通貨の基盤技術であるブロックチェーンを使ったNFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)。コピーではない真正品だと証明できるNFTとして、作品を販売して多額の売り上げを得たアーティストもいるという。

 NFTのような技術が普及すると、ACCSの仕事はなくなると言う人がいる。しかし、NFTを発行したデジタル作品であっても無許諾でコピーやアップロードは可能であり、また、著作権を持たない人がNFTを発行することも技術的にはできてしまうのが現状だ。デジタルコンテンツに価値を与え流通させ、真の制作者に利益をもたらす技術であるが、著作権侵害をなくす夢の技術ではないのだ。

 人間にしかできない創造・創作を促し、著作権が尊重された文化・産業の発展に向けて、「法」「電子技術」「教育」からアプローチするACCSの活動にいまだ終わりはない。

 私は現在、いくつかの大学で著作権・知的財産権の講義を行っている。国士舘大学法学部では警察官、公務員志望の学生たちに「知財犯罪と警察活動」「ネット社会と犯罪」といった講義を持っているが、学生から提出されたレポートを読むと、著作権や創作に対する姿勢の変化に驚く。上記の3要素のなかでは教育こそが一番重要なのである。

 
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕
久保田 裕(くぼた ゆたか)
 1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。
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