視点

ユーザー視点でテレワーク再考を

2021/03/05 09:00

週刊BCN 2021年03月01日vol.1864掲載

 新型コロナウイルス感染症によるパンデミックのせいで、テレワーク推進だのBCP対策だのと、この20~30年、押し寄せては引きを繰り返していた波が、ここにきて大盛り上がりである。あのSARSがはやったときもテレワークやBCP対策を進めようとの動きはあったのだが、いま一つ盛り上がらぬまま立ち消えてしまった。

 だが今回は明らかに様子が違う。前回は関心すら持たれなかった小規模事業者向けソリューションベンダーまでも、そのソリューションをテレワーク対応と謳って売り込みに励んでいる。一方、そういったソリューションのユーザーである小規模事業者の多くは、自分たちの事業にテレワークを導入する意義や効果を見い出せていない。

 10年前の東日本大震災の後、BCP対策のためにクラウドサービスを活用するというテーマで小規模事業者に提案活動を行ったことがある。あるとき、「災害で社内のパソコンが壊れても、タッチパッドやスマートフォンで仕事を続けることができますよ」と申し上げたところ、「そんなものを持たせたら、社員が遊んでしまう」と返されてしまった。

 自分たちの目の届かないところで従業員が働くという就労形態をイメージできない経営者はいまだに少なくない。一方、テレワークで在宅利用できるということを、自分たちのソリューションの付加価値であるがごとく喧伝されるIT事業者の側にも問題があるように思える。ユーザーにとって、いまパソコンで使えているものをクラウドサービスに切り替えることの利点や欠点を理解するのは容易でない。

 パソコンの中にある、いくつもの業務ソリューションをすべてクラウドサービスに切り替えたとしよう。果たしてユーザーとって利便性は向上するのだろうか、否である。

 クラウド上に散ってしまうそれぞれのソリューションのアカウント管理に始まり、ソリューション・データの格納場所、データ連携、データセキュリティ、ネットワークセキュリティなどの問題が浮かび上がってくる。個々のソリューションを個別にクラウドサービス化されたらユーザーの利便性は向上するどころか劣化してしまう。ユーザーのパソコン上にあるソリューション群の運用管理、利用環境をテレワークやBCP対策に対応できるよう再整備することこそ肝要なのではないか。 
 
株式会社SENTAN 代表取締役 松田利夫
松田 利夫(まつだ としお)
 1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降、ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在は「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。
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