視点
株式会社SENTAN 代表取締役 松田利夫
2021/01/22 09:00
週刊BCN 2021年01月18日vol.1858掲載
35年程前に知り合った大手ハード企業のプリンタ開発担当者は入社以来、十数年にわたってインパクトドットプリンタの開発一筋だったことを誇らしげに語っていた。すでにレーザービームプリンタが市場に現れていた。
30年程前、ある大手証券会社で下請け企業から派遣された数百人ものエンジニアを管理していたプロジェクト責任者に「なぜ、こんなに沢山のエンジニアを雇う必要があるのですか」と素朴な質問をした。返ってきた答えは「これだけ雇っても使い物になるエンジニアは数パーセントもいません。その数パーセントのエンジニアを雇うためにこれだけ雇う必要があるのです」。
25年程前に知り合った大手ハード企業を退職した人は、ITエンジニア経験のない青年を数週間トレーニングしただけで、自分が退職した企業の下請け会社を通じて派遣していることを自慢げに語っていた。
5年前まで、大学で情報技術教育に40年間ほど携わってきた。一般に大学でコンピューター教育を担当する教員の多くは情報技術の専門教育を受けていない。数学、物理学、工学、経営学など、それぞれの専門分野で研究のために必要な情報技術をユーザーとして学んだ人たちがほとんどである。そこにはコンピューター教育は難しくない、ユーザーとしての経験があれば誰でも教えることができるという誤解がある。
そして、大学で学んだ専門分野を問うこともなく、新入社員に数週間程度の基礎的なプログラミング教育を施すだけで顧客の現場に送り込んでしまうというのが、典型的な人材派遣型下請け企業である。良いエンジニアとして育つか否かは、エンジニア本人が兼ね備えた才能と現場での努力次第ということになる。
今回のコロナ騒動で人材派遣型下請け企業の多くが苦労をされていると思うが、業界全体で真の人材育成を考え直す機会とすることを心より願いたい。
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