視点

一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕

2020/11/27 09:00

週刊BCN 2020年11月23日vol.1851掲載

 アスキーの創業者、西和彦さんが書いた『反省記-ビル・ゲイツとともに成功をつかんだ僕が、ビジネスの“地獄”で学んだこと』(ダイヤモンド社)を読んだ。今年9月に出版されたばかり。創業間もない米国のマイクロソフトに押しかけ、副社長として日本でのコンピュータービジネスを進める。前半はわくわくする一方、ビル・ゲイツと決裂し、アスキーの創業者2人が離れ、ついには会社からも追い出される中盤は、西さん本人はもちろん、登場する何人もの人たちを知っているだけに悲しい。

 西さんにはコンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)設立後、1998年度まで理事としてかかわっていただいた。私の記憶をたぐり寄せると、アスキー本社を訪ねたとき、ホワイトボードのような壁に文字や図を書きながら一生懸命に説明してくれた姿が思い出される。何の話だったのか今となっては覚えていないが、熱く語ってくれたことだけはしっかりと脳裏に刻まれている。

 この業界はソフトウェアがハードウェアをリードしてきたと言っていい。現状の問題点を把握し、その対策を実現したときの世界を正確にイメージできないと、開発で壁に当たった際に判断できなかったり、方向が迷走することがあるだろう。西さんのように、やりたいアイデアがあり、それを実現するためにハードを開発するというスタイルがあったからコンピューターの世界は発展したのだと思う。

 アスキー創業の2年後、79年に設立され今や売上高が815億円の世界企業になったカプコンの創業者、辻本憲三会長には、約四半世紀にわたってACCSの理事長を務めていただいている。ACCSが今年9月に創立から30年が経ったことを機に、辻本理事長は改めて「国際的な視座に立てば、現代のソフトビジネスは著作権に立脚していることを世の経営者は強く意識するべきだ」と言われた。

 アスキーの出版をはじめソフトウェア事業も全て著作権に立脚していたが、西さんの『反省記』の後半には、銀行や証券会社出身者が事業の意味も将来性も分からず、ただ金勘定だけで事業を整理していったという意味の記述がある。

 今のIT業界はどうか。かつて西さんが描いたような夢はあるのか。『反省記』はこの業界の原点を思い出させてくれる好著だと思う。一読を奨めたい。

 
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕
久保田 裕(くぼた ゆたか)
 1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。
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