視点

事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦

2020/11/13 09:00

週刊BCN 2020年11月09日vol.1849掲載

 最近の若者たちは“検索しなくなった”と言われている。20年間、情報の時代をけん引してきたGoogleやYahooの検索が使われなくなってきているのが現状だ。なぜGoogle検索をしないかというと、SEO対策されているので、ほしい情報が埋もれてしまっていて探しにくいし、情報の優先度に何らかの手が加えられているので、検索して出てくる結果と内容に違和感を覚えているという。それが理由の一つとなり、twitterやInstagramといった別のツールで検索をし始めている。これらのツールは情報の発信源が共感を基にしたメディアであり、彼らは発信者というより中継者として自らのフィルターを介して情報をフィルタリングしてくれている。そこには本当にほしかった情報に近い検索結果が集まっているというのだ。これがインフルエンサーと呼ばれる人たちであり、投稿することでフォロアーという既に共感している消費者に情報を感度高く伝えることのできる人たちだ。

 彼らが生まれてきた背景には、価値の多様化があげられる。昭和の時代には多数決という王道の決定方法が納得性をもって運用されていた。しかし今では価値は多様化し、多数決ができなくなった。それは“みんなが良いのが正しい”という価値観から“僕らがいいと思うことは僕らにとって正しい”と変化してきたからだ。

 逆に言うと“彼らの言うことは僕らにとって正しくないが、彼らにとっては正しいことを許容する”ということが普通になったのだ。だから検索もまずは同じ価値観をもった人のフィルタリングをかけたメディアで行うことが、時間的にも優位になるということなのだろう。ただ、最近は各メディアが広告機能を搭載し始めているので、インフルエンサーが自分の意思に反したフィルタリングをすることによって、この形にも変化が見え始めてきているというのが現状だろう。

 また、狭い価値観に没入してしまうため自分のソーシャルメディアには、興味がないことはだんだん表示されなくなってくる。これは知識の閉塞化を生むこととなり、これもまた違和感を生むことになる。ちなみに私のタイムラインにはVRのことばかりが流れているので、大流行していると勘違いしてしまうほどだ(笑)。

 コミュニケーションの形態は常に変化している。この変化に敏感になっておかないと消費者とのギャップが大きくなっていってしまうので注意が必要である。
 
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦
渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
 1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation  Founderなどを務める。
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