視点

株式会社SENTAN 代表取締役 松田利夫

2020/10/09 09:00

週刊BCN 2020年10月05日vol.1844掲載

 私はかつてASPやSaaSというバズワードがはやった頃、マルチベンダー・サービスをワンストップで販売するマーケットプレイス機能と購入したサービスをユーザー自身が統合管理する枠組みを備えたSaaSポータル技術製品の国内販売に取り組んだことがある。国内の主要な通信事業者、ハードウェアベンダー、システムインテグレーター各社を訪れ、経営陣のみなさんに製品の紹介をさせて頂いていたのだが、そのような日々を過ごす中で、ある日、開発元の社長が「日本の経営者はビジョンだけで意思決定することができない」と嘆いていたことを思い出した。

 米国西海岸を拠点として、北米、中南米、欧州、アフリカ、アジアと世界中の主要な情報通信事業者たちとの面談を重ねていた彼にとって、日本の情報通信産業の経営者たちは異質に感じたようである。このような感覚は、当時付合いのあった欧米を拠点とする情報通信事業者の多くが共有するものであった。

 そして今、出口の見えないコロナウイルス・パンデミックの渦中で、国内の情報通信事業者の多くがテレワーク、BCP対策といったテーマでの事業展開を模索している。

 私が参加する業界団体でも同様のテーマで提案活動を行うワーキンググループが立ち上げられ、早速、業界団体メンバーを対象にテレワークに対するユーザーニーズを調べるという趣旨でアンケート調査が行われた。

 その結果、アンケートに応えて頂けたのは数社のみに終わった。この惨憺たる結果は、当該業界団体メンバーがテレワークに関心がないというよりも、テレワーク導入により個々の業務にどのようなメリットがもたらされるか理解できない、さらに言えば、テレワークが何を意味するか正しく理解する術がないことに起因すると考えられる。

 一方、ワーキンググループを構成する情報通信事業者のみなさんは、各々の取扱製品をリモート利用できるようにすることで、テレワーク需要に応えたいとの思いに偏っている。

 この齟齬は、テレワークに必要な情報通信システム環境について、双方が共有できる包括的なビジョンが存在しないことを象徴している。テレワークのために必要な部材は、すでに数多く市場に出揃っている。テレワーク導入のビジョンを示すためにも、それらを活用した情報通信システム構築・運用管理モデルの提示が求められる。

 
株式会社SENTAN 代表取締役 松田利夫
松田 利夫(まつだ としお)
 1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。
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