視点

事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦

2020/09/25 09:00

週刊BCN 2020年09月21日vol.1842掲載

 コロナ禍の収束はどうやら冬を越えてワクチンの供給が安定化してからになりそうである。そうなると年末から年明けにかけて毎年行われている展示会は密にならないように入場者を抑えながらの開催となる。つまり、入場者数を確保できないので従来の効果を保つことが出来なくなり、出展を取り止める企業も多いだろう。そうなると考えられるのがバーチャル展示会だ。弊社にもかつてないくらいの問い合わせが殺到している。個社の小さなものから数千社のブースまで、いままでリアルで開催してきた展示会をVRでできないか?というものである。私は常に、それVR空間でやる必要ありますか?と問うようにしている。PCからアバターでゲーム画面のように自由にブースを回りたい、併設される講演会では数百人がアバターとして来場したいという要望だ。しかし、ユーザーがどれだけの満足度を得られるのかは疑問である。

 数百人が集う基調講演では、双方向のインタラクションは発生しないのでストリーミング配信が一番安定しているし便利だ。アバターになって仮想会場を訪れるのは一見面白いが、仮想空間に登場するアバターはコミュニケーションをしない以上役割はないし、仮想空間上に投影されたスライドは正直なところ見づらい。ストリーミング配信のほうが見やすいであろう。個別の商談も相手が決まっているなら、Zoomなどのオンラインミーティングが向いている。

 これらの既存のツールを組み合わせてイベント管理システムを立ち上げているところも出始めているので、早々にバーチャルな展示会、イベントはこれが一番便利、という方法が取捨選択されていくことになる。一方、ユーザーが体験を求めてPCでの仮想空間に慣れてくることにより、コミュニティー、つまりアバターコミュニケーションも新たな展開を見せ始めている。バーチャル渋谷、バーチャル東京タワーなど実際に施設のデジタルツインを制作し、リアルでの体験をデジタル空間で行おうというものだ。

 リアルをバーチャルに置き換えることはリアルに勝てない。これが定石だったが、リアルに集まれない状況が長期化することによってユーザー側が新しい楽しみ方を見つけ出し、一定の価値を生むようになってきている。人類は環境の変化によってイノベーションを加速させてきた。コロナは人間のコミュニケーションを大きく変えそうだ。

 
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦
渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
 1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。
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