視点

事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦

2020/07/31 09:00

週刊BCN 2020年07月27日vol.1835掲載

 マスメディアの終焉といわれて久しいが、まだまだテレビの影響力は大きく、大勢に知られることが経済効果を生むという考えが抜け切らなかった。そんな価値観が大きくシフトチェンジし始めた。

 「Z世代」と呼ばれる世代の思考をみても明らかである。先日ある大学のゼミに参加させていただいた際に、好きなアーティストは?との問いに出てきた10組(人)の中で私は2組しか知らなかったのだが、どのアーティストもYoutubeでの再生回数は数百万回を超え、総再生数で数億という実績を持っている。

 彼らに言わせると、なんでジャニーズを知っていて10組(人)を知らないのかが不思議だとのこと。音楽に少しでも携わり周りに関係者も多い私の友人も同じく知らなかった。おそらく私が知っているアーティストより多くのファンを持ち多くの収入を得ている、その次世代アーティストたちは私たちの世代には接点を持っていないという特徴が明らかになった。

 これまでの売れているアーティストは国民のスターであり、多くの共感を得てきた。それが明らかに「僕たちがよいものをよいと思う人たちで共感する」という価値観に変わってきている。これまで多数決で決めてきた合意形成もあまり意味をなさないものになってきている象徴だ。

 メディアのあり方は大きく変わろうとしている。オンラインサロンが活況で、ローカルメディアも多数運営されるようになった。これらのメディアは広告費ではなく寄付や参加費で運営している。メディアはコミュニティーへと変化し、そこに集まる人たちの濃い情報が価値を持つ。その価値は相応の費用を課金しても成り立ち、賛同する寄付も集まる。大きな運用費用ではないが、広告費に頼って規模を縮小していくこれまでのメディアとは思想が違うものだ。

 これからの地域のコミュニティーは価値観に基づいて形成され、そこから生まれる共創が事業をつくる。私はそんなコミュニティーが新しいメディアになっていくと考えている。メディアはコミュニティーをつくり、そこに価値を創造する。ITの役割もこの価値観に大きく影響を受けることになる。その準備のために単なるツールに終わらない価値を提供することがITベンダーにも必要となる。もっと発着想が必要な時代がやってくる。
 
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦
渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
 1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation  Founderなどを務める。
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