視点

東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授 江﨑 浩

2020/07/03 09:00

週刊BCN 2020年06月29日vol.1831掲載

 サイバー・ファースト、オンライン・ファースト型社会への覚醒が加速することは明白であるが、それ以外に、ポスト・コロナ社会ではどのような変化が発生するか考えてみたい。

 4月18日にNHKで放映された「シリーズ コロナ危機 グローバル経済 複雑性への挑戦」での世界の識者の意見を聞くと、インターネット・アーキテクチャーが社会システムに導入されることになりそうだ。主なポイントを列記してみる。

 (1)グローバルな情報の共有 
 どこかの国で成功した情報を共有し、同時にすべての国でその手法をその国の状況に応じて適用する。Think Global, Act Local. つまり、多様性は尊重しつつ、有効な手法・アルゴリズムを共有・適用することになる。

 (2)敢えて最適化しない 
 対応可能な「余白」を敢えて&意図的に提供するために、最適化を敢えて行わない。ビジネスでも、株主優先の短期利益最優先の構造ではなく、長期的なリターン、冗長性、変化への順応性を重視した構造と運用が必要になる。

 (3)選択肢の意図的な提供 
 オープン化を行うことで、機能を実現するモジュールの置換性と選択性の提供を実現する。Single Point of Failureのサプライチェーンではなく、複数経路が柔軟に動的に選択可能なサプライチェーンを実現する。

 (4)ベストエフォート 
 全体を把握して最適化するのではなく、最大限の努力はするが、取りこぼしは存在することを前提にシステムの設計を行う。従って、常時が、小さな非常時の状態になっている。

 (5)エンド・ツー・エンドの原則
 ネットワークの境界やネットワークの中では、高度な機能が存在することを避け、高度な機能は各ネットワークのユーザーで対応する。自助ファースト、次に共助、最後に公助の構造。

 (6)利他主義(自律分散協調)
 自己利益の追求ではなく、利他の動作が、自分の利益に還元される Win-Winのモデルを前提にした自律分散協調型の投資と運用を目指す。株主至上のシステム設計・運用ではなく、相互利益、すなわち、ステークホルダーに対するマルチプルペイオフの設計・運用になる。 

 インターネット・アーキテクチャーの価値はポスト・コロナ社会でこそ一層輝きを増す。
 
東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授 江﨑 浩
江崎 浩(えさき ひろし)
 1963年生まれ、福岡県出身。1987年、九州大学工学研究科電子工学専攻修士課程修了。同年4月、東芝に入社し、ATMネットワーク制御技術の研究に従事。98年10月、東京大学大型計算機センター助教授、2005年4月より現職。WIDEプロジェクト代表。東大グリーンICTプロジェクト代表、MPLS JAPAN代表、IPv6普及・高度化推進協議会専務理事、JPNIC副理事長などを務める。
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