視点

一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕

2020/06/19 09:00

週刊BCN 2020年06月15日vol.1829掲載

 私は30年以上にわたり著作権保護活動を行う中で、特に教育については積極的に取り組んできた。こうした中、昨年、共著で出版した「AI×クリエイティビティ:情報と生命とテクノロジーと。」(高陵社書店)で、著作物という情報の価値や意味を問いかける過程を苦しみながら文章にしてみた。そして、情報について考える上で、敢えて狭い範囲の著作物について考えることは最も大切であると結論づけた。

 著作物の本質である創作、あるいは創作活動の価値や意味を知ることが、情報の本質を理解する重要なアプローチになる。創作物が著作権法で保護されるなら、著作権を勉強することが創作の価値を理解することにつながり、それが情報の本質を理解、もしくは情報の意味を考え続けることになるのである。

 さて、新型コロナウイルス対策から急激にICTを活用した遠隔授業の確立が叫ばれているが、知の伝達という教育の本質を見失うことなく、ネットやタブレット等の端末活用を慎重に普及させるべきである。平成30年著作権法改正で創設された「授業目的公衆送信補償金制度」は、令和3年度以降、本格的運用を目指すことになっていた。それが新型コロナ感染症の流行に伴うオンライン授業の要請に対し、その補償金を無償にして緊急かつ特例として運用が開始された。

 ところが、知の殿堂である大学でも環境整備の遅れがはっきりと露呈した。初等、中等教育機関の実態を目の当たりにすると、コンピューター教育さえ、どのような環境で行われていたのか推察すると情けなくなる。これまでICT教育が普及しないのは、著作権法によって著作物を自由に使えないからだと声高に言い続けてきた教育関係者や為政者に猛省を促したい。

 知である情報へのアクセスはさまざまなメディアが担っていることを忘れてはいけない。私が知る限り、正しく著作権法を理解していれば、知の伝達が萎縮して情報が流通しないなどありえない。合法であれ違法であれ情報は漏れ、流通するのである。まさに「王様の耳はロバの耳」である。

 多様な情報の価値や意味を知るためには、まず、著作権法の保護対象である著作物、すなわち人間にしかできない「思想または感情を創作的に表現」行為の結果生み出される情報について深く考察し、哲学することなのである。

 
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕
久保田 裕(くぼた ゆたか)
 1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。
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