視点
株式会社SENTAN 代表取締役 松田利夫
2020/06/12 09:00
週刊BCN 2020年06月08日vol.1828掲載
甘く見過ぎていた新型コロナウイルスによる今回のパンデミック騒動。テレビ、新聞、雑誌、ビデオ配信サイト、どれを見ても話題はこれで溢れている。哲学者、歴史学者、経済学者、経営学者、テレビ・コメンテーター、そしてIT業界の経営者たち。一様にもう元の世界には戻れないと指摘する。そう、それには同意、きっと世の中が随分と変わってしまうのだろう。
でも、誰の話を聞いても抽象的な内容ばかりで、どう変わるのか具体的に示してくれる人は誰もいない。ここ数カ月、聞こえる話は二番煎じ、三番煎じばかりで、結局、誰かの話の受け売り。明日が見え難くなったこの時代、私たちは何処へ向かえばよいのだろうか。要は臨機応変に社会の変化、市場の変化に応じて日々自らを変えていく、変わっていくほかに策はない。物は考えようと割り切って変わること、新しい道を切り開くことを楽しむくらいの前向きな心の持ち方が大切なのかも。
テレビの報道番組を見ていたら、都心のオフィスを引き払うというIT企業経営者を紹介。単身赴任の社員が、これを機に家族の元に戻ってリモートワークに切り替えるとのこと。これはちょっと良い話。この話を聞いていて思い出したのは、15年程前に付き合いのあったデンマークのグラフィック配信サーバー技術の開発会社。当時、サーバーサイド・テクノロジーに重点を置いた事業展開を企画していた流れで、インターネット探索で見つけて経営者にメールを書き、電話で話して、オーフスという街へ飛んだ。訪ねてみれば、会社建屋は港のボートハウスで、役員3人だけの会社。開発には隣国ドイツ各地に在住のエンジニアを5人雇用。この体制でグラフィック配信エンジンを開発し、数年後にはAdobeに身売り。
こんな会社の在り方に憧れつつも、自分の経営していた会社では同じような体制を組むことは難しいと感じていた。実は、IT業界に限った話ではないのだが、一般に役職者も含めたわが国の企業の従業員の多くが、報酬を自身が拘束された時間の対価あるいは提供する労働作業量の対価と認識してしまっているように思える。残念ながら、自身の知的創造性の対価として報酬を得ることのできる人々は稀有である。このことが、今後、リモートワークを促進する上での足かせとなることを懸念している。
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