視点

事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦

2020/06/05 09:00

週刊BCN 2020年06月01日vol.1827掲載

 コロナ対策として一気に進んだテレワーク。これまで出社することを前提としたワークスタイルを持っていた人は、自分がいかに必要なタスクに関わっていなかったのだろうと痛感していることと思う。テレワークは発言しないと存在を感じることのできないツールであり、常に顔が写っているので会議への参加スタンスがずっと見られていることとなる。

 そして休憩時間や移動時間がなく続くリモート会議はかなり疲れる。通勤時間がない気楽さとは違うストレスを感じているのではないだろうか。逆にこれまでフルタイムで働けないため止む無くパートタイムでの勤務や働くことを諦めていた子育て中の主婦や介護中の人は力を発揮している。家にいながらしっかりパフォーマンスを出すことに慣れているため、出社して自由時間が多かった常勤社員より力を発揮しやすくなってきているのだ。 

 人との付き合い方も大きく変わってくる。そもそも会社の人との飲み会は減少してきており、みんなで集まって、という価値観はもう通用しない。価値観の合う小さなコミュニティーが活性化するためオンラインツールZOOMで繋がりながらUber Eatsで注文したつまみを各々が楽しむ。このスタイルが一定数浸透したら、飲食産業もこれまでの集客は見込めない。一部のクリーンで感染対策を講じた運営コストの高い高級飲食店はさらに高級路線へと向かい、ターゲット層に支持されることとなるだろう。しかし薄利多売系の飲食店は、コスト構造を変更しないと運営できないこととなる。

 一方、オンラインで常につながっていることに関するストレスも爆発してくる。今後は音声SNSがはやるかもしれない。4月に話題になり5月15日に、$100M時価総額調達を発表した次世代SNS候補Clubhouseがその兆候を表している。聞きたい人がいるグループを発見したらそこに参加するだけで彼らの会話を聞くことができる。9割の参加者は発言せず聞いているだけだが、これが気楽で楽しい。

 背景にはアップルのAirPodsをつけっぱなしにする人が多くなってきたこともある。聞くだけなら、ほかの作業と並行してできるし、オンラインセミナーに近い効果が期待できる。考えてみればスライドなしのセミナーは有名人でもない限りカメラ映像はいらないだろう。コミュニケーションのニューノーマルによってビジネスは確実に変容し始めている。
 
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦

略歴

渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
 1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation  Founderなどを務める。
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