視点

東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授 江﨑 浩

2020/05/15 09:00

週刊BCN 2020年05月11日vol.1824掲載

 新型コロナウイルスによるパンデミックは、「デジタル・ファースト」の次の段階である「オンライン・ファースト」を覚醒させつつあり、社会・産業活動の劇的な変革と進化を起こす劇薬になるだろう。抗ウイルス薬が存在しない状況では、物理的な接触と近接を避けることがパンデミックへの本質的な解決法である。このような条件下でも、われわれは社会・経済活動を継続させなければならない。物理空間での短絡(ショート)を行うことなく、物理空間に存在するヒトの間での相互作用をサイバー・デジタル空間を介して排他的に実現しなければならない。

 例えば、「口」で生成される「音」は空気を介して「耳」へ、物理実体が出力する「光」は空気を介して「眼」に伝達される。人と人とのコミュニケーションを、空気の代わりに「デジタルビット化」したデジタル信号で実現することで、人と人の直接の接触・近接を回避する。それがコミュニケーションのデジタル化、そして「オンライン化」である。

 今回の経験を通して人類は、多くの活動がデジタル・オンラインシステムで実現可能であること、また、将来の類似したインシデントに備え、生活・活動のオンライン化の必要性を認識することになる。その時には、オンラインコミュニティーにおける「オフ会」の価値が再評価されるようになる。物理ファーストの世界で、「サイバー・デジタル空間でのコミュニケーション」に価値が見いだされた逆の現象が起こるであろう。

 インターネット遺伝子の重要な特徴は「グローバル性」である。今回は、人の移動がグローバル化したことで、その伝染の速度がこれまでの伝染病とは異次元なものとなった。短絡的な対処法は境界遮断(ファイアウォール)による分断(フラグメンテーション)である。しかし、人の移動を止めることはもはや不可能で「グローバルである」ことを前提にして、有効な対策を見出す必要がある。近年のインターネットで問題・課題として認識されていた「The Internetの維持」と同じである。

 今回、フェイクニュースを含むデジタル情報の伝搬(伝染)も、われわれの想像をはるかに超えるものとなった。人類の生存と繁栄のために、デジタル・ネット遺伝子の正と負の局面・力を認識しつつ、新しいアーキテクチャー・技術が構築されなければならない。
 
東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授 江﨑 浩

略歴

江崎 浩(えさき ひろし)
 1963年生まれ、福岡県出身。1987年、九州大学工学研究科電子工学専攻修士課程修了。同年4月、東芝に入社し、ATMネットワーク制御技術の研究に従事、98年10月、東京大学大型計算機センター助教授。2005年4月より現職。WIDEプロジェクト代表。東大グリーンICTプロジェクト代表、MPLS JAPAN代表、IPv6普及・高度化推進協議会専務理事、JPNIC副理事長などを務める。
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