視点
東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授 江﨑 浩
2020/03/13 09:00
週刊BCN 2020年03月09日vol.1816掲載
(1)バイキングの秘密基地だったので、「氷の国」と命名することで外国人が来ないようにした。隣島のグリーンランドは極寒の国で、外国人が興味を持つようにと「緑の国」と命名(2)マントル対流が沸き上がっている地点であり、電力は水力と地熱発電でほぼ100%を占める(3)人口が約36万人で新宿区と同程度、GDPが約220億ドルで島根県とほぼ同一で、約5兆ドルの日本の0.45%。一人当たりのGDPは7万4000ドルで、3万9000ドルの日本の約2倍(4)住みやすさは常に世界でベスト10以内、男女平等の度合いは5年連続で1位――。
まさに、「グリーン」で「クリーン」、かつ高い生産性を実現している「スマート」な国である。 富山県と似たところがあり、アルミニウム産業が安価で、安定している電力を利用してこれまでの経済を牽引してきたが、近年は金融やDC産業の育成を目指している。
DC産業は、総合的な技術とビジネス構造が必要となるため、ある意味、不動産産業の将来の姿であろう。大量の電力エネルギーと計算資源を投入して、スマートな社会・産業を創造する。アイスランドが提供可能な電力・物流量は、ハイパージャイアントには不足であり、アイスランドはハイパージャイアント以外の顧客をターゲットにすることになる。
DCのサービス品質に関する都市伝説を冷静に考察すると、組織のIT活動には高品質・低遅延が必須とされるミッションクリティカルな業務以外に、そうではない多くの業務が存在する。大量の計算資源を必要とするAIやビッグデータなどは、運用コストの高い国や都市に存在するDCで稼働させる必要はない。ドイツの自動車メーカーのBMWはこれに気がつき、ドイツ国内の75%の計算資源をアイスランドのDCに移動させ、この75%の業務に必要な電力は100%再生可能エネルギーとすることに成功。「RE-100」の戦略的施策としている。まさに前提を見直し、新しいビジネス構造を創成しながら同時に地球温暖化問題解決への貢献を実現するというシナリオである。「クール(cool)以上のアイス(icy)な戦略」ではないだろうか。
- 1