視点

事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦

2020/02/07 09:00

週刊BCN 2020年02月03日vol.1811掲載

 米ラスベガスで開催される世界最大の家電展示会CESの開催前日、トヨタは自ら富士山の麓に「woven city」 という名のスマートシティを作ると発表した。Woven cityは自動運転を前提とし、走行データだけではなくあらゆるセンシング可能なライフデータを収集し、テクノロジーによって暮らしやすい街を作り出すプロジェクトだ。

 このプロジェクトのすごいところは既存の街で行うには弊害があり、なかなか進まない導入を一気に進めようというものだ。ここに住む2000人はデータをセンシングされることを前提とし、自動運転やトヨタが提供する新しい移動サービスを使うことを了承した人のみが居住するのだ。

 グーグルやマイクロソフトなど大手IT企業は既存の都市に巨額の投資を行いスマートシティの実証実験を開始しているが、その多くは住人の理解が進んでいない。しかし、woven cityは違う。トヨタが考えるスマートシティを受け入れ開発に協力する人しか居住しないのだ。未来を想定し未知なるものを作り出すだけではない、エネルギー問題や環境問題を想定しゼロミッション、カーボンニュートラルを初めから実現する。豊田章男社長のプレゼンはとても魅力的でワクワクするものだった。久しぶりに日本企業が世界に打って出る期待を抱かせてくれた。

 しかし心配なこともある。2025年万博がスマートシティの実験場としてなんのしがらみもなく作ることができる実験都市として計画されるものと期待していたが、聞こえてくる声はそんなに簡単ではないようだ。もちろん各企業の利権や損得を考えるなとはいわないが、万博で作り出す未来像は一旦各社の都合を横において議論しなければ、本当に目指す未来は構想できない。未来はバックキャスティングな考え方で作り出さない限り結果は満足できるところには達することはないのだ。Woven cityにかかわる人たちの短期の損得でソリューションや方式が決まり、理想の形を逸脱することがないことを祈っている。それが実現できたとき次の社会を担うプラットフォームが日本発で実現されることとなるだろう。

 人口減少問題、超高齢化問題、気象変化による災害の増大化。日本が抱える問題は即座に根本から見直す必要のある課題である。のんびりとまだ大丈夫という風潮からぬけ出せない社会を、woven cityが突き抜けてくれることを願っている。
 
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦

略歴

渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
 1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。
  • 1