視点

アジアビジネス探索者 増田辰弘

2020/01/31 09:00

週刊BCN 2020年01月27日vol.1810掲載

 自慢話をするわけではないが、2019年(18年1月1日~12月31日)の住民基本台帳に基づく人口動態調査で、私の出身地である島根県知夫村(ちぶむら)の人口増加率は、前年比3.93%増で東京・千代田区と並びトップとなった。分母となる村の人口そのものは少ないが、この大躍進は少子高齢化が進む日本社会に重要なヒントを与えくれる。

 人口が増えた要因は、第1に盛り沢山の前向きな政策にある。第3セクター方式による地域版総合商社の設置、都会の子どもの島留学、インセンティブが魅力的なUターン、Iターン政策などこれまでの常識にとらわれない政策である。

 第2は地方の持つ特有の因習係数を低めたことである。地方の衰退は企業が少なくて選択できる職場が乏しいうえ、さしたる根拠もなく長く続いている地域独特の習慣、因習が排他性を生んでいることである。この因習係数をかなり低めたのだ。

 日本経済は年功序列、業界主導、官治(監督官庁)支配、並び文化など農村集落型で、これが高度成長時代は威力を発揮したが、GAFAに代表される今日のデジタル社会では逆に足かせとなり、生産性が低く先進国では唯一のゼロ成長国家となっている。

 第3はSNSの活用である。インターネットで「知夫里島の景色」を引くと60万件も出てくる。すさまじい量なのだ。村役場や観光協会が仕掛けたのでなく、島を旅行した人と村人との人情レポートなどが勝手連的に数を増やし、その結果、旅行客を呼び込み注目を集めているのだ。

 第4は、新住民の村人との協調性である。人口の増加はほとんどがUターンでなく、Iターンである。このIターンの新住民の感性がすばらしい。村人の行事に付き合うレベルではなく、草取りや祭りなどの下働きは、彼らなしでは成り立たなくなってきている。

 企業でも自治体でも個人の人生でも、長き因習と固定観念に縛られ挑戦、イノベーションを無くしたときに長き停滞は始まる。

 逆にどんな悲惨な状況でもあきらめずに挑戦し、イノベーションを仕掛けたときに局面は大きく変わる。人々に忘れられかけていた、日本海に浮かぶ小さな寒村の挑戦がわれわれに教えてくれる。  
 
アジアビジネス探索者 増田辰弘

略歴

増田 辰弘(ますだ たつひろ)
 1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。2001年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。
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