視点
東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授 江﨑 浩
2019/12/27 09:00
週刊BCN 2019年12月23日vol.1806掲載
行動をサービスあるいは生産作業としよう。サービスに対する顧客の満足度(KPI)を最大化するのがUX(User eXperiene)であるので、人工知能を用いたUXイノベーションは、サービスの提供方法のマニュアル化と捉えることができる。より多くの経験(データ)を用いて、より細かな粒度でより確度の高い(リスクが小さい)アクションを選択しているのである。
マニュアル化は、サービスの提供者や労働者を含む生産資材の個体差を無視し、要求されるアクションを正確に実行する環境の構築である。この環境の構築にはアトム化されたツール群を用いて、多様な顧客への要求に対し低コストで柔軟に対応することが可能になると考えるのが一般的であろう。つまり、汎用品ツールの組み合わせによるカスタマイズ化をいかに効率的に実現するかが、高品質のUXを効率的に提供するための重要なノウハウである。ユーザーのグループ化の粒度をより細かくし、より高度で高品質のUXを提供するために必要なコストと、品質向上による利益のトレードオフの問題となる。利益の総量が大きくても、利益率が小さければビジネスとしては成立しない。
さて、マニュアル化を行わず、サービスの各提供者が、顧客ごとに柔軟に対処するというのが、伝統の「おもてなし」であろう。伝統にも共通のツールや手法が存在するし、顧客のカテゴリー化が存在する。しかし、伝統においては、これが明文化されていない。これまでデジタル化されていなかったおもてなしの領域に、デジタル技術が導入されることで、サービスや生産作業のマニュアル化が進行しているのではないだろうか。
アトム化されたアクションを誤りなく低コストに実現可能な、人あるいは機械によってUXイノベーションは実現可能になりつつある。日本のおもてなしは、マニュアル化(デジタル化)が可能なのだろうか?
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