視点
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕
2019/12/20 09:00
週刊BCN 2019年12月16日vol.1805掲載
AIの時代に創作はどう位置付けられるのか。AIが作り上げた創作物に著作権はあるのか。あるいは誰が持つのか。著作権に携わる私から見てとても興味深いテーマである。
このイベントでも話をしたのだが、本書でも「創作は体験に根ざす」という漫画家の松本零士さんの言葉を使って、創作とは何か、ということを説明した。
人間の認知は主観的なもので、同じ刺激を受けても感じ方は千差万別。同じものを表現しても、人によって感じ方が違うので表現は異なったものになる。そこに創作性が生じる。さらに言えば、身体感覚を通じて人の内部で生命情報が形成され、そこから言語やその他の表現手段によって、社会情報としての創作物が生まれる。それが著作物である。
こう考えると、AIではなく現在に至るまで人が行ってきた創作は、それ自体が素晴らしいものだと思う。著作権法も苦労して創作した人に敬意を払い、その権利を守るための法律だということに思い至る。
本書では、世界的音声認識技術とAIを組み合わせたシステムを開発しているアドバンスト・メディアの鈴木社長のインタビューも掲載している。コールセンターの音声を分析することでトラブルが起こりそうな対応がリアルタイムに分かり、電話セールスの成約率が向上したと言う。
松本先生の言葉も、鈴木社長の取り組みも、キーワードは人間回帰だ。唯一無二の存在である個々の人の創作や判断を引き出す考え方であり、技術である。創作活動を鼓舞したり、AI技術によって人間らしさを大事にして能力を引き出す。こうした考え方が、価値デザイン社会あるいはソサエティ5.0と言われる現代社会では大切だ。
コンピュータソフトウェア著作権協会は設立から30年を迎える。著作権保護活動を通じて、人の創作、創造、ひいては人間らしくある社会づくりに貢献していることを誇りに思っている。
- 1