IT業界が振り返るべき平成の30年と、幕を開けた「令和時代」への期待
量子コンピューターは令和時代に間に合わないかも
2019/05/10 12:55
一般的に量子コンピューターといえば、既存のコンピューターの上位互換とされるゲート方式の量子コンピューターを指す。汎用的に使えるとのことで、【汎用量子コンピューター】ともいわれる。汎用ゆえ、市場規模が大きく、グローバル大手や主要国が汎用量子コンピューターの開発に取り組んでいる。既存のRSA暗号を解読可能なアルゴリズムがすでにあることから、軍事目的での開発が指摘されることも多い。ただ、暗号解読には1万とも100万ともいわれる量子ビット数が必要であり、現状の100量子ビット程度では解読できない。暗号解読が可能な量子コンピューターの登場には、数十年の年月が必要ともいわれ、それを「実用」と呼ぶのであれば、令和時代には実用化が間に合わない可能性もある。主な課題は、安定した量子の確保、計算時に発生するエラーを訂正する「量子誤り訂正」の実装にある。なお、量子コンピューターでは解読できない暗号技術【量子耐性暗号技術】が、すでに幾つか登場している。
二つめはゲート方式だが、完全な量子誤り訂正機能を実装せず、スケールしない量子コンピューターで、【NISQ(Noisy-Intermediate Scale Quantum computer)】と呼ぶ。IBMやグーグルなどが開発している量子コンピューターは、このNISQにカテゴリーされる。前述の通り、量子コンピューターに期待されるアルゴリズムの実行は難しいが、現状のスペックでも実行可能な処理があるのではないかとのことから、新たなアルゴリズムが模索されている。すでにIBMの量子コンピューターは、一般に開放されているため、有効活用できるアルゴリズムの開発が進めば、令和時代はNISQの時代となる可能性が大いにある。
三つめが、アニーリング方式を採用した量子コンピューター。カナダのD-Wave Systemsが2011年に商品化。グーグルと米航空宇宙局(NASA)が05年、「従来型コンピューターよりも1億倍高速」と発表して、ブームに火がついた。アニーリングマシンは、組み合わせ最適化問題に特化した専用機とされる。汎用量子コンピューターでも、理論上ではアニーリングマシンと同等の処理が可能なことから、「アニーリングマシンは汎用量子コンピューターが登場するまでの役割を担う量子コンピューター」だと言われることがある。とはいえ、アニーリングマシンは商用サービスが提供されているが、汎用量子コンピューターはいつ登場するかが見えない。そのため、現状の実ビジネスにおいては、アニーリングマシンの活用が最も期待されている。ちなみにアニーリングの理論は、1998年に西森秀稔教授が当時指導学生であった門脇正史氏と共同で提唱したという経緯もあり、アニーリングマシンへの期待は日本で大きい。富士通や日立製作所は、デジタル回路を用いたアニーリングマシンを開発。NECは、量子回路のアニーリングマシンを23年の実用化に向けて開発している。ビジネスでの活用も進みつつある。リクルートグループでは、実ビジネスでの効果を世界に先駆けて発表した。また、アニーリングマシンを活用したソフトウェアの発表も出始めている。実用面で考慮すると、令和時代の新世代マシンとしては、アニーリングマシンへの期待が最も大きい。(畔上文昭)
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