中国ではAI・ビッグデータを用いた新しいビジネスが、日本とは比較にならないスピードで推進されており、データセンター(DC)の需要が急拡大していることを実感する(40%弱の拡大が5年以上継続)。
日本と大きく異なるのは、規模の大きさと竣工までの期間の短さである。北京や上海などの大都市での大規模DC建設は、市当局の規制や制限により非常に難しく、郊外での超大規模DC建設が主流となっている。
制限する大きな要因がエネルギー提供、すなわち電力供給インフラの提供にあり、郊外の大規模発電送配電システム(管轄は国家電網)と連携した形で、数百MWクラスのDCが、2年以下の工期で設計から竣工まで完了する。
超大規模DCの最大の利用者は、GAFA+M(グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾン+マイクロソフト)と比較されるBAT(バイドゥ・アリババ・テンセント)と、大量のデータ処理を必要とするオンラインゲーム事業者だ。これらDCでは、高性能なサーバーやスイッチ、ルーターが惜しげもなく投入されている。
こうしたDCと5Gに代表される広域IoTインフラの整備とともに、主要都市ではスマートシティの取り組みが急加速している。特に、アリババの杭州市、ファーウェイの深セン市では、世界最先端技術を投入した超大規模分散システムの構築運用が進行している。このような状況であるからだろうか、米国政府によるファーウェイとZTEの米国同盟国からの市場締め出しが進行している。安全保障に関する情報漏えいやサイバー攻撃の可能性・危険が存在するのがその理由とされ、日本の政府も同調する方向と報道されている。
筆者が一番問題であると考えるのは、この危険とする証拠が全く示されないことである。米国にとって経済的脅威になりつつある中国の成長を阻害するための「いいがかり」に思えて仕方ない。グローバル経済を崩壊させる愚かな行動・施策・政策としか思えない。
グローバルな市場にとって、国は重要ではあるが一つのステークホルダーであること、国で閉じる/完結する経済に戻ることは、もはや不可能であること、さらにインターネットの遺伝子である「自律分散協調」が必須であることを各国政府を含む全てのステークホルダーが認識し、適切な行動をとることが必要ではないだろうか。
東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授 江崎 浩
略歴

江崎 浩(えさき ひろし)
1963年生まれ、福岡県出身。87年、九州大学工学研究科電子工学専攻修士課程修了。同年4月、東芝に入社し、ATMネットワーク制御技術の研究に従事。98年10月、東京大学大型計算機センター助教授、2005年4月より現職。WIDEプロジェクト代表。東大グリーンICTプロジェクト代表、MPLS JAPAN代表、IPv6普及・高度化推進協議会専務理事、JPNIC副理事長などを務める。