「IoTで新しい事業を立ち上げるようにと、社長から言われています」
世間でなにやら騒いでいるので、うちも何かしなくてはいけないということなのだが、これは”絶対に”うまくいかない。
そもそもテクノロジーは解決策であって、目的ではないからだ。事業が抱えるいかなる課題を解決したいのかをはっきりとさせないままに、テクノロジーを使うことが目的となってしまっているのでは、うまくいく道理はない。
こんなPoC(概念検証)を繰り返していたら、お客様に予算がいくらあっても足りないだろう。まさにPoC貧乏である。一方、これに加担するITベンダーやSI事業者にとっては、必ずしも悪い話ではない。なぜなら、成果を保証することなく工数を稼ぐことができるので、短期的には“PoC成金”になれるかもしれないからだ。
しかし、それが顧客の事業に組み入れられなければ、継続的な収益の確保や拡大にはつながらない。また、本番を伴わない取り組みはノウハウが蓄積しないし、持ち出しも増えるだろう。結局はこちらも“PoC貧乏”になってしまう。
PoCは本来、何が事業課題かを明確にすることから始めなくてはいけない。その手段はIoTだけとは限らない。IoTも選択肢に置きながら、最善策は何かを考えることだ。また、IoTを解決策として適切に生かすには、正しい理解が必要だ。
例えば、サイバー・フィジカル・システム、機械学習、モノのサービス化、システムの三層構造、IoTを想定した通信やセキュリティーなどの概念やテクノロジーについても理解しておく必要がある。
このような理解を土台に、顧客の事業の成果を実現するための筋道をともに描いていくことが「共創」である。
「何を解決したいのか、何を実現したいのか」を明らかにすることから、顧客と一緒になって考えることだ。もちろん、手段ありきの話ではない。
これまでのように工数需要の拡大が期待できなくなろうとしている今、顧客の事業に関心を持ち、その課題を顧客と一緒になって解決する地に足が着いた関係を築いていかなければ、生き残ることができない時代になろうとしている。
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義
略歴

斎藤 昌義(さいとう まさのり)
1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する。