5月の連休を使って、中国のデータセンター(DC)視察ツアーを行った。中国のDC産業は、ここ 5年ほどは30~40%の成長を続けており、現在の市場規模は、米国の約3分の1、日本の3倍の規模と、著しい成長を遂げた。 2年前の視察ツアーは、香港に隣接した経済特区である深セン地区への訪問であったが、その時と比較してみると、その規模と技術面の成長は驚くべきものであった。
近年、仮想通貨の普及や人工知能・ビッグデータを用いた新しいサービスやビジネスの起動・拡大・普及が、いずれも日本とは比較にならないスピード感をもって進みつつあることが、街並みを見てもすぐに分かる。
例えば、2年前では本格化していなかった「シェアード自転車」は、ほぼ中国の主要都市で普通のサービスとして展開されている。また、物理貨幣の利用頻度は極端に減少し、アリババやテンセントなどの非銀行系のサービスプロバイダが提供する仮想通貨が一般生活に浸透し、街のいたるところで使われているのだ。
これらのサービスは2年前にはまだ導入が始まったばかりであったが、本格展開となったことから、DCの主要な利用者は、大きく様変りしている。いまのDC産業の成長に寄与している大部分は、これらデジタルネイティブなサービスを提供する事業者となっていることを、今回、確認することができた。
北京近郊でDC事業を展開するStackData社は、わずか9か月で200MWクラスの超大規模なDCの設計・構築・竣工に成功している。
また、今回の視察ツアーでは成都を訪問。中国の不動産王が初めて自力で設計・構築した万達グループ(Dalian Wanda Group)の旗艦DCを訪れた。このDCは、中国でほぼ唯一のTier 4のDCで、 設計から竣工までを約9か月で完了(その後、事業ライセンスの認可などに約半年)したとのことだ。
市場および技術状況の変化・進化の激しい最先端のインターネット業界。そこで躍進するDC事業者は、政府と密接に連携しながら対応していることがよく分かる。日本では、ほぼ不可能な速度での設計・施工である。
「百聞は一見に如かず」。実際の状況を現地に赴き実感・体感することの大切さ・重要さを再認識した。
東京大学大学院情報理工学系研究科教授 江崎 浩
略歴

江崎 浩(えさき ひろし)
1963年生まれ、福岡県出身。87年、九州大学工学研究科電子工学専攻修士課程修了。同年4月、東芝に入社し、ATMネットワーク制御技術の研究に従事。98年10月、東京大学大型計算機センター助教授、2005年4月より現職。WIDEプロジェクト代表。東大グリーンICTプロジェクト代表、MPLS JAPAN代表、IPv6普及・高度化推進協議会専務理事、JPNIC副理事長などを務める。