組み込みソフト開発技術者を1000人近く抱えるキヤノンソフトウェア(キヤノンソフト、神森晶久社長)は、APTJ陣営に合流している。この7月からはAPTJでAUTOSAR開発に従事する技術者をさらに増やし、「APTJでの活動を通じて車載ソフトウェア開発領域で存在感を一段と高めていきたい」(池田幸一・第一エンジニアリング事業部事業部長)と意欲を示す。APTJは名古屋大学の高田広章教授が中心となって設立し、組み込みソフト開発大手の富士ソフトなどが参画している。他にもNEC通信システムとイーソルがデンソー系のAUTOSAR開発会社のオーバスに、豆蔵やSRAなどがSCSK陣営にそれぞれ加わるなど、国内勢は三者がしのぎを削る状態だ。

左から大石基広部長、池田幸一事業部長、川村和義部長
キヤノンソフトは、1980年代からキヤノンの十八番のハンディーターミナルを使ったECU(電子制御ユニット)の故障診断装置を開発したり、2007年にグループに迎え入れた旧アルゴ21でカーナビ向け組み込みソフト開発に従事していた技術者を取り込んだりして事業を拡大。近年では車載カメラやレーダーに関連する組み込みソフト開発にも参加。キヤノングループ外に向けたビジネス全体の8割方を自動車関連が占める。しかし、「AUTOSARに関するノウハウはなかった」(大石基広・事業推進センター第一営業部部長)ことから、APTJに加わることを決めた。
今年に入って、キヤノンソフトからAPTJへの出向組の第一陣リーダーとしてAPTJの本拠地の名古屋へ出向いた川村和義・第二エンジニアリング事業部システム26開発部部長(出向先のAPTJでは開発部グループマネージャー)は、キヤノンの主力製品の一つである複合機向けの組み込みソフト開発に携わっていたエース級の技術者。AUTOSARをベースとした車載システムの割合が増える見込みのなか、国内のAUTOSAR技術者が不足するのはみえている。川村氏は「AUTOSAR関連技術を習得し、技術者の育成に役立てたい」とし、まずは自らがAUTOSAR開発に従事することで腕を磨く構えだ。
AUTOSAR開発ベンダーで日本に進出している外資勢は欧州2社、米国1社、インド1社の計4社。国内3陣営は欧米印のAUTOSARベンダーに遅れをとっているのが現状であるものの、AUTOSARをECUに実装したり、AUTOSARに対応したミドルウェアやアプリケーションを開発するには人手がかかる。外資勢の多くは海外の自前の開発センターで請け負うのに対して、日本のSIerは客先に常駐したり、顧客のすぐ近くの事業所で開発できたりする地の利がある。こうした利点を生かすためにも、AUTOSAR人材の層を厚くするとともに、自らが属している陣営のAUTOSARの開発を急ぐ必要がある。池田事業部長は、「AUTOSARをきっかけとして、自動車業界における当社の存在感を一段と高めていきたい」と、APTJの活動を通じて技術者育成に力を入れていく方針だ。