ITホールディングスグループのTISが一部出資するスタートアップ企業のエルブズ(田中秀樹社長)は、「地域社会に役立つAI(人工知能)」をコンセプトに、AI活用型のビジネスを立ち上げようとしている。今年2月に設立した同社は、AIを活用して地域社会・経済の活性化に取り組む。だが、現実問題としてAIの音声での会話(自然言語処理)能力はまだ技術的な水準が低く、使い勝手もよくない。また、地域社会のとりわけ高齢者はスマートフォンなどのIT機器になじみが薄く、AI活用のハードルになっている。


田中秀樹
社長 そこで「10年後に高齢者になる年齢層」を目下のメイン・ターゲットとし、自然言語処理ではなく「メッセンジャーのグループチャットのなかにロボットを混ぜる」手法を考案した(図参照)。スマートフォンのメッセージ・アプリは、中年層はもちろん50代も比較的よく使っている。同アプリには、複数のユーザーと同時にテキスト・メッセージのやりとりができるグループチャット機能があるのだが、このなかにロボットを混ぜることで、「地域の暮らしとAIの連携が可能になる」(田中社長)と話す。
この方式ならば、音声での会話ではないためAIがなじみやすく、地域住民がグループチャットしているのを横で「聞き」ながら、会話の流れから生活するうえでどのような需要があるのかをマーケティングしやすい。イメージとしては、メッセージアプリのLINE上で動作する日本マイクロソフトの女子高生AI「りんな」のようなものだ。エルブズでは、すでに京都府の南山城村(人口2896人)をモデル地域として、同村の住民と遠隔地に住む子どもたち、地域の商店、自治体などをAIを介して結ぶシステムづくりに取り組んでいる。
地域社会のなかに溶け込むことで、地元商店や道の駅、役場などからの各種案内を届けたり、逆にAIが地域住民に「御用聞き」をすることで二ーズを聞き出したりして、地域社会・経済の活性化に役立てる。
エルブズでは、これを「社会性エージェント」「御用聞きAI」と呼んでおり、AI活用のターゲットや用途を限定することで、地域社会に根ざした実用性の高いシステムを構築していく。田中社長は、「将来的に全国自治体の1割に相当する170地域に、御用聞きAIをはじめとする当社のAIサービスを普及させたい」と意気込んでいる。