マイナンバー制度の施行に続き、総務省により自治体情報システムのセキュリティ強靭性向上のための指針が示されたことで、セキュリティ対策ソリューションとしてのシンクライアント技術への関心が再び高まってきた。それに伴い、いろいろな方々とシンクライアント技術についてお話しをする機会が増えた。そして、実に多くの技術者の方が、20年近く前から市場に存在するこの技術を正しく理解されていないことを改めて思い知らされた。シンクライアント技術に限らず、どのような技術でもそれを採用する際には、その技術をいろいろな角度から観察し、長所短所を理解し、さらに短所を補う周辺技術を理解して、より目的に適った利用法を見出す、それこそ技術者としての腕の見せどころではないだろうか?
シンクライアントを、単にハードディスクを取り除いたパソコンという意味で理解されていないか?ソフトウェア技術としてのシンクライアントを利用された方なら、ハードディスクのついたファットPCがシンクライアント端末として使われていることをご存じだと思う。すなわち、物理的なハードディスクの有無は、シンクライアントという概念を形成するうえでどうでもよい話なのだ。
シンクライアント技術が、クライアント/サーバー方式のアプリケーションをインターネット越しに利用するために開発されたことをご存じですか?シンクライアント技術は、クライアント/サーバー方式におけるデータ通信量を抑制するために考案されたのである。また、シンクライアントは、クライアント端末側のキーボード、マウス、ディスプレイを、サーバー側のCPU、メモリ、ハードディスクと組み合わせてネットワーク上に仮想的なコンピュータを構成する技術だと見なすこともできる。このような視点に立てば、シンクライアント技術はクライアント端末側の操作性でサーバー側の操作ができる技術と考えられる。シンクライアント技術が、サーバー側で実行されるアプリケーションをクライアント側から操作する技術だと理解し、その実装方式を考察してみれば、動画や音楽の配信には適さないことに気が付くはずである。
一つの技術に多くを求め過ぎず、それぞれの機能に適した周辺技術と組み合わせて最適化を図ることは技術者に求められる大切な役割である。
一般社団法人みんなのクラウド 理事 松田利夫
略歴

松田 利夫(まつだ としお)
1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降、ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。