“技術力”をウリにする企業は多いが、IT業界で技術力の違いを説明するのは簡単ではない。「こういうことができます」と技術力の高さを説明しても、それを伝え聞いたもう一方のSIerが「当社でもできます」と主張できるからだ。では、SIerにとっての技術力とは何か。それを示すことができなければ、価格競争になってしまう。小規模なSIerにとって、価格勝負は死活問題となる。大阪でシステム開発を手がけるマクティズムは、説明が難しい“技術力”に活路を見出している。(取材・文/畔上文昭)
Company Data会社名 マクティズム
所在地 大阪市北区
資本金 300万円
創業 2009年1月
社員数 5人
事業概要 ソフトウェア開発事業、アプリ開発事業POSレジ開発事業、ECサイト開発事業、ECサイト・企画コンサルタント事業
URL:http://www.mactism.com/ 受託開発とSESの両輪で

岩下隆祐
代表取締役 「今年からSES(System Engineering Service)を始めた」と、マクティズムの岩下隆祐代表取締役はいう。2009年創業のマクティズムは、もともと受託開発を中心に事業を展開してきた。しかし、請け負いでは自分たちの得意とする言語や環境で開発するため、新たな技術を身につけることができないと判断。新しい技術の習得を目的として、SESを始めたというわけだ。
SESへの参入は順調にスタートしたが、主力事業にするとは考えていない。「技術力がつくまで。SESを長く続けると、受託開発に戻すのが大変だから」と岩下代表取締役。SESは新たな技術を習得するのにいい機会となるが、受託開発のほうが自由度が高く、技術力を生かしやすい。ゆえに、受託開発とSESの両輪で事業を展開していこうとしている。
人材育成が大きな課題
ただし、マクティズムが望むような受託開発を受注するのは、難しくなってきているという。「案件を受注しても、社内で開発するのではなく、客先への常駐など、場所を指定されるようになった」と、岩下代表取締役は最近の傾向を心配している。コンプライアンスやセキュリティの対策が必要なため、顧客は管理のしやすい開発場所を指定することになる。
SIerからすると、客先に常駐する場合は案件のかけもちができないため、効率が悪い。かけもちができなければ、収益もSESと大差がないことになってしまう。また、客先に技術を習得中の新人を配置するのは難しいため、教育の場も失ってしまうことになる。岩下代表取締役は、「受託案件を社内にもち帰ることができなければ、人が育たない」と心配している。
IT業界は人材不足の状況が続いているが、大阪も例外ではない。「エンジニアの採用が年々厳しくなっている。エンジニアが不足していて、取り合いになっている。なり手も少ないのではないか」という印象を岩下代表取締役は抱いている。マクティズムでは中途採用は厳しいと判断し、未経験者を育てていく方針で取り組んでいる。ただし、これまでは受託開発で育ててきただけに、前述した傾向が強くなると、未経験者の採用も慎重にならざるを得ないのかもしれない。
出退勤システムで特許取得
マクティズムは、システム開発に加え、自社開発のパッケージシステムも保有している。一つは、自社で販売も手がけているPOSレジパッケージ製品「レジism」。完全なオリジナル商品で、電話回線工事事業者などと提携して、顧客を開拓している。
もう一つは、社労士法人からの要請で開発した出退勤管理システム。PaaS/ASP型で提供していて、販売とコンサルティングは社労士法人が担うものの、マクティズムにも売り上げの一部を得る契約になっている。「受託開発やSESだけでは、売り上げの上限がみえてしまう。そのため、出退勤管理システムのようなストックビジネスを強化していきたい」と岩下代表取締役は語る。
実は、この出退勤管理システムは特許を取得している。「変形労働時間制に対応したシステムで、例えば見込み残業を翌月に繰り越すことができる」と岩下代表取締役。開発にあたっては裏話もある。「社労士法人が出退勤管理システムの開発を依頼したのは、当社で3社目。それまでの2社では、社労士法人を満足させるシステムが開発できなかったらしい」と岩下代表取締役。マクティズムの技術力の高さが、出退勤管理システムの開発で証明された。
今後について岩下代表取締役は、「IoTが普及することによって、これまで以上のセキュリティ対策が求められる。東京五輪に向けても、IoTを活用することが増えるだろうから、ますますセキュリティ対策のニーズが高まってくるはず。今後はそこに注力していきたい」と語る。ただし、単なるセキュリティ対策では競合が多過ぎるため、強みとなるような“プラスα”を求めて取り組んでいくとしている。