マイナンバー(社会保障・税番号)制度の2016年1月からのスタートを目前に控え、業務パッケージソフトベンダーは、制度対応に向けて製品改修の仕上げに追われている。人事・給与分野を中心に、少なくとも40~50種類の帳票にマイナンバー欄を設けたり、番号を安全に保管する機構を新設している。10月時点でも一部の役所からは、はっきりとした帳票のレイアウトが示されていないケースもみられ、完全に対応するには「年内いっぱいかかる見通し」と、ある業務ソフトベンダー幹部は話す。

スーパーストリーム
山田誠
取締役CTO こうした取り組みも、実はビジネス的な観点からみると、直接的な売上増にはほとんどつながっていない。多くのベンダーは、通常の保守契約料金の範囲内で、ほぼ毎年、実施される制度改正対応の一環として対応しているからだ。ベンダーによっては、改修のための技術者の人件費がかさんだり、顧客へのサポートが利益の押し下げ要因になることもある一方で、マイナンバーをきっかけに「新規顧客の獲得につながってビジネスが伸びた」というベンダーもある。
キヤノンマーケティングジャパングループで、人事・給与パッケージソフトを開発するスーパーストリームは、今年第3四半期累計(1~9月期)の受注が前年同期比で2割増しで推移しているという。これは、主力商品の「SuperStream(スーパーストリーム)人事給与システム」のマイナンバー対応の完成度の高さに加え、手組みの人事・給与システムを使っているユーザーや、大手ERPパッケージをカスタマイズして使っているユーザーを主なターゲットとして、リプレース(買い替え)を働きかけたところ、「引き合いや受注が大きく伸びた」(山田誠取締役CTO)ことが要因という。
スーパーストリームも、自社パッケージのマイナンバー対応は、通常の保守料金の範囲内で対応しているため、売上増につながらない。このため、マイナンバー対応への改修のハードルが高いであろう手組みや、カスタマイズ版のシステムを使っているユーザーへのリプレース営業を強化した。マイナンバーのセミナーは、これまで約50回、累計2000人を集客し、新規顧客の獲得に力を注いできた。
人事・給与システムは年末調整が一段落した1月のタイミングで入れ替えるケースが多い。同社では「来年1月の本稼働分だけでなく、17年1月稼働に向けての商談も活発化している」(同)とし、リプレース商談は向こう1年ほど続く勢いである。
国内の成熟市場において、人事・給与システムを入れ替えるタイミングは、そうそう巡ってこない。販売管理や生産管理ならば、売り方やつくり方を変えるときにシステムを刷新する例は少なくないが、人事・給与は売り上げや利益に直接つながるたぐいのシステムではないこともあって、一度、入れたら大切に長く使う傾向が強い。見方を変えれば、マイナンバーはこうした保守的ともいえる人事・給与システムの入れ替えを促すほどの強烈なインパクトがあったことを裏付けている。(安藤章司)