マイナンバー（社会保障・税番号）をどこまで厳密に運用するのかによって、マイナンバーにかける情報セキュリティの強度や管理コストが変わってくる。先行する諸外国の番号制度をみると、場合によっては緩めの運用がなされている一端がうかがい知れる。

　まずは移民大国アメリカの社会保障番号（ソーシャル・セキュリティー・ナンバー）制度は、行政サービスや金融、就労、医療など幅広く使われているが、社会保障番号をもたない人も一定層が存在するとされる。わかりやすい例が不法移民ではあるが、社会保障番号がなければ就労や銀行口座、行政サービスを利用するのは難しいため、実際問題として「便宜的に他人の番号を流用するケースもみられる」（アメリカの番号制度に詳しい研究者）という。もちろんこうした“なりすまし”のようなことは許されるべきではないが、多様な社会を形成するアメリカならではの事情がある。ただし、出生地主義のアメリカでは、親が不法移民であっても、アメリカで生まれた子孫についてはアメリカ国民になれるため、社会保障番号の取得に問題はない。

　また、住民登録番号制度を運用している韓国では、ウェブサイトの会員登録などにも住民登録番号を使っているため、サイバー攻撃などで個人情報が漏えいする過程で、住民登録番号も流出してしまうケースが少なくない。とはいえ、社会や経済に大きな打撃を与えるほど深刻な問題になっているかといえば、実はそれほどでもないという。マイナンバーに詳しい富士通総研の榎並利博・主席研究員は、「流出した住民番号を使っているユーザーを調べたところ、中国のあるユーザーが韓国のウェブ上で配信されている韓国ドラマを見たり、ゲームで遊んだりするために（韓国から流出した）住民番号を使っている例がみられた」と話す。

　アメリカ、韓国のいずれの例も、なりすましが多くを占めるものの、深刻な実害には至っていない印象を受ける。かといって、なりすましは違法であり、韓国内限定で配信しているドラマやゲームを外国から視聴、プレイするのは著作権に抵触する可能性が高い。しかし、だからといって番号制度そのものがトータルでみてマイナスかといえば、そうではなく、社会保障や納税、公的扶助の公平さを保つのに多大な役割を果たしている。

　振り返って、日本のマイナンバー制度の本格的な運用がスタートすれば、ある程度の番号漏えいは避けて通れない。企業からの漏えいだけでなく、個人レベルでマイナンバーが記してあるメモ書きを落とした、マイナンバーのICカードを紛失したといった類いまで含めれば、可能性はいくらでもある。一方で、諸般の事情でマイナンバーを使えない、あるいはマイナンバーをもっていない人が出てくることも想定できる。どこまで厳密に運用するのかは、実際に運用してみないとわからない部分も残されている。

　マイナンバーの流出や“なりすまし”に神経質になりすぎず、また、番号だけに過度に依存しすぎないバランスをいかにとるかが求められている。（安藤章司）