前号に続いて、ソニーの眼鏡型ウェアラブル端末への挑戦をレポートする。普通のメガネと変わらない使い勝手を実現するには、視界を遮らない透過型のディスプレイをゼロから開発する必要があった。ソニーでは2009年に米国コンシューマ・エレクトロニクス・ショー(CES)で初めて、その試作機を公開したものの、「当時は量産化に向けた技術的めどはまったく立っていなかった」(武川洋・SIG準備室統括部長)と振り返る。
メガネ用の透明なレンズに透過型の映像を映し出すには、ハーフミラー(マジックミラー)やプリズム機構を用いる方法が知られているが、これでは、透過率が高まらなかったり、映像が不鮮明だったり、あるいはプリズム機構の厚みがでてしまうなどの不都合があった。ソニーでは「ホログラム導光板」と呼ばれる独自の方式を10年がかりで開発し、学会発表も行ったが、肝心の量産技術でつまずいてしまった。ホログラム導光板は、メガネのレンズ部にホログラム光学素子を組み込むことで、映像を伝搬する仕組み(図参照)。この方式を使えばレンズを厚さ1ミリまで薄くできるとともに、透過率を85%超まで高められるという。
量産化のめどが立ったのは、試作機公開から3年後の2012年、米国の映画館の聴覚障がい者向けのメガネとして納入したときのことだった。このときは、メガネをかけた人でも装着できるように大きめの“ゴーグル”型の形状で、字幕表示に特化した。映画の(映像部分の)鑑賞を妨げずに字幕を表示する機能は、透過率の高いホログラム導光板だからこそ実現できたものであった。この技術をさらに改良し、よりメガネに近づけたウェアラブル端末へと進化させるには、さらに2年余りの期間を投じることになる。

ホログラム導光板を実装した「SmartEyeglass(スマートアイグラス)」をかける武川洋・統括部長 ただ、ソニーが目指している「普通のメガネと変わらない使い勝手」にまで完成度を高めるには、より一段の小型軽量化が欠かせない。実機では、かなりおおざっぱにメガネをかけても映像や文字がくっきり見えるところまできている。目の位置は人によってバラツキが大きく、「鼻メガネ」のように前方にかけるのを好む人もいるなど、「かなりアバウトにかけても映像が見える」(武川統括部長)ように設計した。 (つづく)(安藤章司)