視点
中国での苦境を跳ね返す日系ソフトウェア会社
2013/10/03 16:41
週刊BCN 2013年09月30日vol.1499掲載
日本のあるIT企業(仮にA社としておく)が、中国東北部のハルピンに進出し、ソフトウェアの開発とデータ入力の仕事を行っていた。冬場の長いハルピンで、輸送費がかからず、屋外に出なくてもよいソフトウェアの開発やデータ入力は都合のいい仕事であった。
1990年代後半、中国に進出してから10年くらいの間、A社の事業はまさに絶好調であった。良質なソフトウェア技術者が集まる。円高元安で、コストは安い。おもしろいように仕事が取れた。厳しくなり始めたのは、リーマン・ショックの後で、賃金がどんどん上昇するようになって以降だ。事業がうまく回らなくなり始めたところに、この円安元高である。
A社は、日本からの仕事がこれからしばらくは見込めそうもないので、やむを得ず新しいビジネスモデルを考えた。今度は円安元高を活用したビジネスである。今、重点的に進めているのは、これまで培ったソフトウェア開発能力を活用して、日本酒、化粧品、健康食品などの日本の商品をネットを使って中国国内で売っていくというビジネスである。
しかしこのビジネスは、多くの日本企業が挑戦して挫折した歴史がある。13億人と日本の10倍の巨大なマーケット、多くの富裕層、旺盛な消費熱と、今にもネットビジネスが成功しそうだが、なかなかそうもいかない。物流、資金回収など問題点も多いのだ。
そこで、A社はこれまでの日本企業が挫折した反省を踏まえて、極めてシンプルなビジネスモデルでスタートを切った。まず、顧客はこだわりのある富裕層に絞る。商品も高級品に限定する。注文があると日本から自動的に送付する。代金も前払いで決済する。そんな方式で大丈夫なのかと思われるが、成功している前例もある。ある日本の教材会社が、子ども向けの高額な学習指導書を売っているが、これが年間数十万部の売り上げを上げている。この教材会社のすごいところは、ネットでも売っているが、最初は全国のPTAを一つひとつ回って父兄に1冊ずつ売ったことである。
中国は確かにネット社会だが、こつこつと実績をつくり、クチコミで広げなければ、ネットでも売れない。冒頭のA社は、円安元高のお蔭で新しいビジネスノウハウを身につけつつある。
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