視点

OSSによるクラウドへの取組みと課題

2013/09/12 16:41

週刊BCN 2013年09月09日vol.1496掲載

 大手システムインテグレータに勤める友人に、「国際的なハードウェアベンダーが提供するプロプライエタリ(使用や複製などを制限する)ソフトウェアを使ってエンタープライズ向けクラウド運用基盤を構築している」と聞かされたのは5年ほど前のことだっただろうか。そのときは、正直なところ、クラウド基盤の構築・運用技術がこんなにも早くオープンソースソフトウェア(OSS)として誰にも容易に手に入るようになるとは思いもしなかった。今日、小規模事業者でさえも、数十台の廉価な物理サーバー群上にOSSを使ってIaaSのクラウド環境を複数構築し、社内情報システムの運用ばかりでなく、ソフトウェアの開発やテスト環境などの運用にも日常的に利用している。また、パブリッククラウドと連携するネットワークやPaaSの社内基盤の構築についても、エンジニアの教育を兼ねてOSSを利用した取り組みを進めている。

 このように小規模組織向けのクラウド基盤を実用的に構築し、運用するためのOSS環境がだいぶん整ってきた。クラウド基盤を構築・運用する際に必要なOSSのノウハウは、豊富にインターネット上に公開されている。

 だが、実際にOSSを使ってクラウド基盤を構築し、運用を始めた後に判明する機能的な制限やバグもいろいろとある。バグにせよ機能的な制限にせよ、多くの場合、OSSコミュニティ活動を通じて解決されるのを待たねばならない。しかし、だからといって使い物にならないと決めつけてはならない。運用を工夫してバグを回避すればよいし、他のOSSを使って機能的な補完をすればよい。私たちにとって今大切なことは、さまざまなOSSを組み合わせて市場ニーズに応えられる機能をクラウド上に構築し、安定運用するためのノウハウを蓄積して明日に備えることなのだから。

 クラウド人材の確保も大きな課題である。クラウド基盤の構築・運用に使われるOSSは種類が多く、組み合わせが複雑で、相応の技術知識が要求されるため、小規模事業者が単独でクラウド基盤を構築・運用する人材を育てるのは難しい。したがって、利用するOSS群について多くの事業者間で技術分担を行い、人的資源への投資リスクを分散し、さまざまなノウハウや事業機会を共有して公正な利益分配が行われるようなエコシステムを構築することが小規模事業者には求められる。要は、クラウドビジネスの仲間づくりがカギとなるわけである。

一般社団法人みんなのクラウド 理事 松田利夫

略歴

松田 利夫(まつだ としお)
 1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降、ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。
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