視点

「昭和の歌など聴きながら」では負ける

2013/01/24 16:41

週刊BCN 2013年01月21日vol.1465掲載

 ラオス、ミャンマー、カンボジア、バングラディシュの街の景色を眺めると、愕然とすることがある。日本企業の看板がないことだ。ひと昔前は新興国のどこにでもあった日本企業の看板が姿を消して、中国企業そしてサムスン、LG、エイサーの韓国、台湾勢の台頭である。まざまざとその現実を見せつけられる。

 本音としては現地の人たちはソニーやシャープのテレビを欲しているのかもしれない。しかし、ハイアールやTCLの中国企業製のテレビが1万円前後で売られていれば、給料が1万円から2万円の彼らにとっては安いほうが断然魅力的である。しかも、デパートにでも行かないとそもそも日本企業製の製品が並んでいない。この状況を改善しないことには売れようがない。日本企業は超円高でどうしようもない経営環境なのか、現地の日系の家電メーカーの方に話を聞いてみたら、意外な答えが返ってきた。

 「やり方次第では、なんとかそこそこの商いはできますが、日本の本社がなかなか理解してくれません。そもそも中国、インド、タイなどの大きなマーケット以外は投げている感じなのです。もう、日本企業が優位な立場で商品を売る時代は終わっています。かたちにこだわらず、現地に権限を移してなりふり構わず売り抜く体制にしなければ勝負になりません。このあたりを未だに本当に理解していない。まだ、上から目線なのです」と嘆息交じりで語る。これだけアジアの企業がのしてきて日本企業の市場が奪われているのに、にわかには信じ難いが、事実のようだ。成功体験は恐ろしい。それが染みつくとなかなか払拭できない。

 中国企業は国内の13億マーケットで採算を取るので国外では投げ売りでかまわない。韓国と台湾は国内マーケットが小さいので、国外で稼がざるを得ない。そんな彼らと競争しているのに、まだ昔の体制でやっているのでは心もとない。八代亜紀の唄に『昭和の歌など聴きながら』があるが、昭和の歌など聴いていてはいけない。

 国家も企業も、あるいは個人も正確に自分の位置を確認する能力が生き残るためのカギである。この確認ができるからこそ、激変する環境に対応できる。一方で、衰退、消滅は自分の位置を確認する能力が落ちた時から始まる。大きなマーケットでそこそこ商売していくというような楽な道を選ぼうとした時から凋落が始まるのだ。半導体、テレビ、パソコン、携帯電話などの競争力の落ちた分野で、本気で獰猛なアジア企業に対峙する気持ちが失われつつあることこそが危機なのである。

アジアビジネス探索者 増田辰弘

略歴

増田 辰弘(ますだ たつひろ)
 1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。01年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。
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