視点

一億総精神疾患? あるいはメンタル問題

2012/12/20 16:41

週刊BCN 2012年12月17日vol.1461掲載

 前回の国会で、可決されなかった重要法案がある。それが、労働安全衛生法の改正による「メンタルチェックの義務化」である。この法案が可決されれば、すべての企業に、1年に1回の定期健康診断と同様に、1年に1回のメンタルチェックが義務化される。

 メンタルチェックの内容は、10個程度の質問に答えていくというもの。一定の点数が出ると、医師による面接指導等の措置を取ることが義務づけられる。これにより、企業負担が、社員1人あたり年間300円程度増加することになる。費用負担自体は、さほど問題視するほどの金額ではない。むしろ、この法案の目的を理解し、企業として対応しておくことが重要となる。この法案は、早ければ、総選挙後の通常国会で可決・成立するものと思われる。

 精神疾患にかかる人が増えている。とくにサラリーマンに増加する傾向がみられる。その大きな要因として、厚生労働省が重要視しているのが、長時間労働、企業内のパワーハラスメントやセクシャルハラスメントである。

 長時間労働に関しては、6か月平均で月80時間、直近の1か月で160時間、または3週間で120時間という新たな基準を昨年の暮れに出した。これは、労災認定の期間を短縮する目的で定められたもの。労災の認定まで平均1年程度かかっていた期間を、6か月程度に短縮しようとする目的で出された基準だ。

 長時間労働だけではなく、「顧客とのトラブルがあった」「上司や同僚とのトラブルがあった」「達成困難なノルマが課された」など、心理的に負荷がかかる要因も詳細に挙げている。

 また、心理的負荷にレベルを付けて、「強度」「中度」「弱度」の三つのパターンに分けている。例えば、「『中度』の要因が二つ以上あると『強度』になる」というような判断基準で、労災認定の期間短縮を図る。

 企業にとって問題なのは、心理的な負荷による労災認定が行われると、同時に、企業としての安全配慮義務が問われるという点である。企業相手の、安全配慮義務違反を根拠とする裁判も激増している。メンタルチェックの義務化法案は、すべての企業にメンタルケアの実施を促す目的でつくられているのだ。

 時代は、大きく変化している。企業が負うべき責任が「もの」から「人」にシフトしていることを認識しなければ、事業継続のうえで大きなリスクに見舞われる時代になってしまった。
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