視点

新しいビジネスモデルを創出した鴻海

2012/12/13 16:41

週刊BCN 2012年12月10日vol.1460掲載

 最近、シャープに資本参加することで話題となっている世界的なEMS企業の鴻海(ホンハイ)精密工業が大きな注目を集めている。アップル、ノキアなどの製品の受託生産を行う鴻海に部品を供給している日本企業の台湾子会社の総経理に取材した。「鴻海だから、契約内容は厳しいのでしょうね」と問いかけると、けげんな様子だ。鴻海との取引は、日本で行うような協力企業が部品の納入をするかたちではない。鴻海の武漢や成都などの工場内の倉庫を賃借して、そこに部品を保管しておいて、鴻海が使用した分だけが部品会社の販売額になる。決済は月末締めの60日後払いだから、実質90日後の支払いとなる。取材を受けてくれた会社は、台湾企業3社と共同で鴻海に部品を供給している。日系企業の販売価格は台湾企業の倍の価格なのに、鴻海はなぜかその電子部品の購入量の10%程度はコンスタントに購入している。

 「日本企業は、高精度で多品種少量の部品など、台湾企業が供給しにくい部品を供給しているからでしょうね」と聞くと、その総経理は、またもやけげんな表情をする。「もう日本企業にできて台湾企業にはできない製品は少ないですよ。鴻海に直接聞いたわけではないですが、台湾企業3社に結託されると困るので、おそらくリスク管理ではないかと思います」と語る。

 鴻海は年間売上高が10兆円。10年間でなんと30倍の伸びである。毎年5%のコストダウン、鴻海へ家賃を支払っての部品の販売、低い利益率、鴻海と部品を販売している会社はこんなやり方ではどこもおもしろくないはずである。それでも毎年これだけ売り上げが大きく伸びるので、つき合わざるを得ない。

 前出の総経理に、「鴻海との取引は儲かっていますか」とたずねると、「鴻海自身の利益率が数%と低いのですから、うちがそんなに儲けさせてもらえるわけはありません。しかし、鴻海との取引にはそれに代えられないものがあります。世界で繰り広げられるグローバルなビジネスの内容がわかるのです。日本国内での取引、日本企業との取引だけでは世界的なビジネスの状況が把握できにくくなってきましたね。世界ビジネスの的確なビジネス情報を得るためには、鴻海や廣達電脳など台湾企業との取引は欠かせません」という答えが返ってきた。

 欧米、日本、韓国までは、自らがブランドをつくって世界市場に売る戦略であったが、ブランドをもたずに受託生産を行うEMS企業モデルを創出して世界市場を席巻する鴻海の姿は、誰も予測し得なかったはずだ。

アジアビジネス探索者 増田辰弘

略歴

増田 辰弘(ますだ たつひろ)
 1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。01年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。
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