視点

ドラえもん的アイデアとITで産業再生

2012/09/13 20:45

週刊BCN 2012年09月10日vol.1447掲載

 “ネコ型ロボット”で知られる人気キャラクター「ドラえもん」が、9月3日に誕生日を迎えた。といっても、ストーリー上の生まれは2112年なので、今年は「生誕100年前」ということになる。ドラえもんのポケットからは、未来の道具がたくさん出てくる。これら神々しい道具と未来の生活には、世界中の子どもだけでなく、大人たちも夢中になっている。  21世紀の世界に夢を与えてきた日本のものづくり──。“ものづくり大国日本”といわれた、その牙城が大きく揺らいでいる。技術力には長けていても、アイデアやビジネスモデルづくりで後塵を拝することになったためだ。最近、アップル創業者の故スティーブ・ジョブズ氏が「ドラえもんを読んでいた」というのが、SNS上で話題になった。真偽のほどは定かではないが、作品の中で「iPad」と酷似したツールが登場する。これを真似たというのだ。いずれにしろ、ジョブズ氏が、ドラえもんの作者である藤子・F・不二雄のような創造性豊かな人物だったことは確かだ。

 日本には、世界に冠たる技術力の蓄積があり、世界で活躍する製造業を支えてきたITのノウハウも存在する。だが、製造業の多くは、特効薬となるアイデアも生み出せないまま、地に落ちつつある。製造業に限らず、産業再生は喫緊の課題だ。とくに、地方に根ざした産業は行く末が案じられている。

 こうした状況に、自治体も対応する動きをみせている。広島県は、「ひろしま産業新成長ビジョン」にもとづき、「イノベーション立県」の実現を目指している。このビジョンに従って、医療分野などで産官学で連携した取り組みが始まった。ここに地場IT産業も、深く関わろうとしている。広島県は、中国・四国地方では県民所得が最大規模で、多彩な製造業の集積地でもあり、「世界一」を誇るハイテク産業も数多く存在する。ただ、少子高齢化や人材の首都圏流失などで、これら産業の行き詰まりが懸念されている。

 広島県の情報サービス産業に限らず、地方のITベンダーの多くは、全受注量の半分程度に及ぶ仕事を首都圏の大手ITベンダーから下請けして生き延びている。今後、受託ソフトウェア開発が大きく減ることは自明の理だ。競争力のある地場の既存産業とITが融合し、日本だけでなく世界に出る、というのが広島県の取り組み。クラウドやビッグデータ、スマート技術など、多くの産業を蘇生するための武器は揃っている。あとは、アイデアだ。
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