視点

IT人材の育成を実現した岐阜県の試み

2012/04/19 20:45

週刊BCN 2012年04月16日vol.1428掲載

 岐阜県では、昨年、国の緊急雇用の資金を活用してスマートフォンの開発人材を100人も育成するという、かなり大胆な事業に挑戦した。そしてこの3月末に成果発表会を催し、一応の終わりを迎えた。興味深いスマートフォン用ソフトがあったり、すぐにビジネス化できそうなソフトもあったりして、期待に十分応える成果が出た。また、多くの研修者が地元企業をはじめ県内また名古屋への就職が決まり、なかにはソフトピアで起業する人も現れるなど、新たな挑戦が始まった。1年前の未就業者100人がこのようなステップへ進むことができた要因として、本人たちの必死の努力があったことは当然として、それを支援する体制が充実していたことも見逃せないポイントだ。

 まず特筆すべきは、ソフトピアに拠点を置く8社のIT企業が、各社の得意とするスマートフォン開発分野で、独自の専門技術とノウハウを研修者に伝授し、それぞれの企業の個性に適合した人材を育成したことである。共通の研修プログラムではなく、各社がオリジナルの研修プログラムを実践したことで、多様な開発人材が育成されたことは非常に価値があったと思う。

 各社は、オリジナルの研修を実践することによって、人材育成をめぐって否応なくある種の競争状態に置かれることになった。どの企業がどのような人材を育成するのか、その育成は今のスマートフォンのマーケットからみて有効なのか、そもそも育成の成果を出しているのかなど、各社が真剣にならざるを得ない状況が生まれた。しかも研修の進捗状況がフェイスブックの「アプリ開発100人育成構想」サイトで公開され、各社の研修状況が可視化される仕組みになっていたので、ここでも競争状況が意識された。

 もう一つ、協働原理も不可欠である。研修者は、夜になるとソフトピアのモバイルカフェという交流会に集まり、自分たちが構想しているアイデアや技術的疑問などを持ち寄り、他社の多くの研修者たちと一緒に議論したり、時には合同でミニプロジェクトを立ち上げるなど、新しい接触の場を大いに活用していた。そうすることで技術向上だけでなく、ヒューマンなコミュニケーションも充実することとなり、生き生きと開発に従事する環境がつくられた。そこにはソフトピアで研修しているという共感のコミュニティが生成されていたとみることができる。こうしてみると、競争と協働という関係性の原理とそれぞれの可視化がいかに大切であるかがわかる。
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