視点

クラウドサービス選択についての一考察

2012/03/15 16:41

週刊BCN 2012年03月12日vol.1423掲載

 私たちはなぜ手書きでなくワープロで文書をつくるのだろう。自分の好みの機能、操作性を備えたものよりも、なるべく大勢の人々が使っているワープロを選ぶのはなぜだろう。それは、他の人々と文書を交換し、共有し、共同作業を行うためにワープロを使うからである。そのために、ワープロでつくった文書をメールに添付して互いに送り合い、共同作業者がアクセスできる共有ストレージ領域をネットワーク上に確保する。共同作業者は、その文書のファイル形式と互換性のあるワープロを、それぞれが利用するパソコン上に用意しておかねばならない。ところが、同じメーカーのワープロですらバージョンが異なれば互換性が保証されないということもあり、共同作業者の誰もが同じメーカーの同じバージョンのワープロを使うほうが無難だと考える。その結果、ワープロを利用するための基本ソフトウェアやハードウェアについても近頃はあれこれと考えなくなった。

 ここで、あえてクラウド上のワープロを選択する理由を考えてみよう。これまで利用してきたパソコン中心のネットワーク環境では、ソフトウェア機能はユーザー側で管理される個々のデバイス上に備えられることを前提としており、ユーザーやデバイスの間でデータを共有することだけを考えてきた。これに対して、クラウドサービスでは、データだけでなくデータを処理するソフトウェア機能をも共有して利用することになる。このため、データ形式やソフトウェア機能の互換性を気にする必要がない。

 要するに、Windows、Mac、Linuxなど、身の回りにあるどんなパソコンでも使えるし、またスマートフォンやタブレットなどの携帯端末を使うことも可能になる。さらに、クラウド上のワープロを使えば、ワープロそのものに文書を共有する機能が備わっており、共同作業者間でメールのやり取りをすることはもちろん、共有ストレージに格納するという独立した操作さえ不要になる。また、ワープロの文書を共同で作成するにも、作業者個々が加筆訂正し、順次回覧するということも不要になり、共同作業者が全員で同じ画面を見ながら、同時並行的に加筆訂正を行うということも可能になる。

 クラウドサービスの導入を検討する際には、提供されるソフトウェア機能の評価だけにこだわらず、ワークフローの効率化や市場環境の変化に対応するビジネスプロセスの改善という観点からも評価することが求められる。

一般社団法人みんなのクラウド 理事 松田利夫

略歴

松田 利夫(まつだ としお)
 1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降、ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。
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