視点

クラウドサービスの組み合わせが生み出す価値

2012/01/19 16:41

週刊BCN 2012年01月16日vol.1415掲載

 どこもかしこもクラウドである。しかし、目を凝らしてよく見ると、賑わっているのはIaaSと呼ばれるクラウドばかりだ。SaaSと称するものは、ASPと呼ばれた時代と変わり映えのしないものばかりが目につく。PaaSに至っては、いまだ限られた有名ブランドものしか見当たらない。半年ほど前のことだが、大手システムインテグレータに勤務する友人がふと漏らした言葉が今も耳に残る。「IaaSは売れる、確かに売れ出してきた。しかし、SaaSは売れない、売り方がわからない。PaaSはどうすればよいかすらわからない」。クラウドビジネスに関わる人々の本音を代弁しているような気がする。

 しかし今、クラウドサービスを集めようという動きが顕著になってきた。そのような動きは、数年前から一部大手企業の間でみられてきたが、サービスプロバイダをそれぞれのデータセンターの顧客として集めることが主たる目的であった。それが、ここへきて、クラウドビジネス戦略の一環として、再販を目的としてクラウドサービスを集める動きが広がりをみせている。実際、私自身、クラウドサービス再販のための技術体系について相談を受ける機会が増えてきている。その業種もハードウェアベンダー、システムインテグレータ、データセンター事業者、インターネットサービスプロバイダ、通信事業者、商社と多岐に渡っている。お会いした方々に共通しているのは、従来の技術偏重からマーケティング重視へと力点を移し、クラウドサービスを集めて売る技術体系や組織体制を模索しておられることである。

 クラウドサービスは、ただ集めて、そのまま並べれば売れるというものではない。ユーザーのニーズに合わせて取捨選択し、組み合わせることが必要になる。クラウドサービスは組み合わされることによって、互いにその価値を高め合う。クラウドサービスを単体でユーザーに評価されれば、これまで使ってきたパッケージソフトウェアとの機能や性能の比較に陥りやすく、廉価であることや管理負担の軽減などの面ばかりが強調されがちになる。比較して選べること、負担なく試せること、自由な組合わせができること、サービス導入やユーザーの管理が楽なこと、共同作業が容易にできることなど、クラウドサービスの利点はたくさんある。クラウドサービスがなかなか売れない原因の一つは、このような利点をユーザーが体感できる再販体系が整備されていないことにある。

一般社団法人みんなのクラウド 理事 松田利夫

略歴

松田 利夫(まつだ としお)
 1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降、ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。
  • 1

関連記事

クラウドサービスを利用すべき理由の訴求を

クラウドサービスを使うべき理由

小さな雲を集めて“みんなのクラウド”