視点

出よ! 日本のスティーブ・ジョブズ

2011/11/02 16:41

週刊BCN 2011年10月31日vol.1405掲載

 スティーブ・ジョブズ氏が亡くなった。謹んで哀悼の意を表したい。

 仕事上、直接にApple社と関わったことはないが、ユニークな製品を市場に提供し続けている同社の姿勢には常に共感を覚えていた。

 初めて出会ったApple社製品はApple IIだった。1978年頃だと記憶しているが、職場の同僚の家を訪問した時に見せてもらった。ただ、当時はあまり関心がなかったように記憶している。

 製品として印象深いのはマッキントッシュである。1980年代後半、当時、私は外資系電子機器メーカーで開発業務を担当していたが、米国本社へ出張するエンジニアの間でマックを担いで帰ってくるのが流行っていた。雑誌などではマックを散見していたが、同僚の一人が職場へ持ち込んだ実物を初めて目にした。まず、それまで見たことがないGUIの出来映えに感心した。使いやすい、見やすいアイコンのデザインに驚いたのはもちろんだが、68000系のCPUで製品設計を行った経験から、コンパクトなHWによるスムーズなグラフィック処理に非常に興味を覚えた。

 後に初期Windowsの日本語化プロジェクトに少し関わったことがある。DOSベースのシステムでは快適なGUIの構築が難しいことは最初から予想できたことだが、マックの躍進によってPC-AT互換機のGUI化を急かされるプレッシャーは強力だった。パソコン全体のGUI化促進は、一般への普及速度に大きな影響があったと思う。

 ジョブズ氏復帰後に初代iMacが発表された時には、競合製品として意識する立場だった。マックもデザイン的に斬新な製品だったが、iMacはその後のApple社のデザイン重視の方向性を明確にした製品であった。一体化によるきょう体の美しいパッケージとともに、パソコンはなんでもモノトーンという状況だったマーケットに、カラーの意識を喚起したのはやはりAppleならではのものだと思う。さまざまな製品のカラー化は、市場が安定成長期に入ってしばらくしてから起こる現象としてみられる。この効果で安定成長期間の延長を図ることができるが、実際に結果を予測して着手するには、的確なマーケット分析力がないと難しい。

 ジョブズ氏のような経営者、技術者、マーケットアナリストとして卓抜した能力を備えた人材が国内にも現れ、活躍することを期待している。
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