視点

素晴らしい道を開くために変革せよ

2011/10/20 16:41

週刊BCN 2011年10月17日vol.1403掲載

 日本のGDP(国内総生産)は540兆円弱。国の調査などによると、国内IT産業は約20兆円程度で、GDPの4%弱を占めている。ただ、「多重下請け」の状態にあるソフトウェア開発の構造上、統計上は元請けと下請けが1案件をダブルカウントしているため、実質的なIT産業は15兆円弱(GDPの3%弱)というのが定説だ。米国のIT産業は、GDPの5%程度に達している。米国と比較すれば、日本のIT産業は現在の2倍近い伸びしろがあることになる。

 アップルの創業者、スティーブ・ジョブズ氏が亡くなった。今年8月、米石油大手のエクソンモービルを抜いて、アップルは株式時価総額で世界一の企業となった。その後の10月5日、iPhoneの新版「4S」を発表した翌日のことだ。ジョブズ氏はパソコンの黎明期と成長期に主役を演じ、今度はiPadでパソコン市場を破壊しようとしている。製品のライフサイクルは30年程度。そんな説を立証するかのように、彼はIT業界を先導した。

 物質的な豊かさの時代が去り、使うことで心の豊かさを与えられなければ、製品は売れない時代に突入した。アップルは、製品の機能の先進性だけでなく、iTunesなどサービスの新基軸を世に送り出してきた。ジョブズ氏は、2005年のスタンフォード大学で、「名演説」との評価が高いスピーチを行った。「人生には頭をレンガで殴られる時がある。しかし信念を失わないこと」。自分が素晴らしいという道を歩み続けることだと説いたのだ。ITを提供する側の「素晴らしい道」とは何なのか。

 今、企業にITシステムを提供するITベンダーには、この言葉を再度噛み締めてほしい。これまでは、企業の労働生産性や業務効率化を進めるIT機器やソフトウェアを提供してきた。だが、これらの目的で使われるITは、もはや文具と同等にあたりまえに企業内に存在している。本当の意味で企業がITのありがたみを実感するのは、ITを使って事業が急成長したり、過去に蓄積された膨大なデータを分析して先々の経営を読むことができた時だろう。

 ITベンダーは顧客の御用聞きになってはいけない。顧客の声をよく聞き、経営者がみている先を読み、ITベンダーのもち得る技で、顧客の発展に貢献する提案をするという信念を抱き続けることが大事だ。日本のIT内需はまだ伸びる。同時にIT外需を伸ばすチャンスも巡ってきている。クラウド時代への突入とともに、ITベンダーには変革が求められている。
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